どうして?
 戦いながら、何度も思った。
 どうして戦わないといけないの?
 まっすぐにしか生きられない。信念を懸けて命をやり取りして、だからこそ引き返せない。山南さんの言葉は、筋がとても通っている。
 それなのに、アタシはどうしても納得できない。
 どうして命のやり取りでしか結論を出せないの?
 悔しくて苦しくて、認めたくない。正しい死だとか、美しい死だとか、そんなものがあるとは思いたくない。
「新撰組の誰も曲がっていない、誰も間違っていないのなら、どうして誰かが死ななきゃいけないんですか!」
 山南さんの顔が、つらそうに歪んだ。
「正しくない死を、人に与えてきた。美しくない死を、人に強いてきた。ワタシの想いがまっすぐだとしても、ワタシは、正しくも美しくもない殺人鬼だ」
 奪った命は帰らない。信念を外れてしまえば、幕末の剣士はただの人殺しになる。
 ラフ先生がただ一言、絞り出すようにつぶやいた。
「このバカ……!」
「愚かでかまわない。ワタシは、己を曲げては生きられない」
 アタシの魔法が、ラフ先生の双剣が、そして沖田さんの刀が、着実に山南さんの肉体を傷付けた。白い翼が血に染まった。白銀の髪も赤く汚れた。
 そしてついに、糸の切れた操り人形のように、山南さんが地面に落ちる。
 力場が消えた。
 勝利の表示もボーナスポイントの換算も全部スキップして、アタシたちは山南さんに駆け寄った。
 乱れた髪は、黒く戻っている。着物のえり元が裂けていた。右の鎖骨の下の紋様は、ズタズタに断ち切られている。
 沖田さんは山南さんを見下ろした。だらりとした右手に、抜身の刀を提げたままだ。
「さすがに疲れたでしょ? 山南さん、帰って休もうよ。近藤さんたち、待ってるから」
 山南さんは沖田さんを見て、微笑んだ。柔らかい声が、歌うようにつぶやいた。
「帰りたかったなぁ……」
 そして起こった一連のできごとを、誰も止めることができなかった。
 山南さんが身を起こした。沖田さんの刀の刃をつかんで、自分ののど笛を掻き切った。
 鮮血が噴き上がる。
 それは一瞬で、青い光が、赤い血に代わった。
 アタシたちの目の前で、山南さんは、まるで倒されたモンスターのように、青い光になって消えた。
 沖田さんが、呆然と、その名を呼んだ。
「山南さん……」
 刀を、血のしずくが伝って落ちた。そのひとしずくさえ、青く光って消えた。
 風が吹いた。
 けがれのない白い大きな羽根が一枚、どこからともなく舞い落ちてきた。