ラフ先生が双剣を抜き放った。アタシは観念して叫んだ。
「変身―ドレスアップ―!」
 この場に似合いもしないムービーをスキップする。唄の発動。魔法の詠唱に入る。
 純白の羽ばたきで、山南さんが飛ぶ。くるり、くるりと、獲物を狙う猛禽のように、アタシたちの頭上を旋回する。
 アタシは、棒立ちの沖田さんに駆け寄った。ほぼ同時に、山南さんの二対の翼が衝撃波を巻き起こす。
「氷壁―アイスウォール―!」
 真上に展開した氷のバリアに、かまいたちが衝突する。弾き飛ばされたエネルギーが周囲の木々をなぎ倒す。
 ラフ先生が跳躍した。
“c-ya”
 双剣を束ねた重い一撃。山南さんが刀で受け流そうとする。ぐらり、と体勢が傾いた。チャンスだ。掲げたアタシの右手から、氷のつぶてが飛ぶ。
「氷嵐―アイスストーム―!」
 追撃のコンボが決まる。ラフ先生の双剣がさらに、白い翼を狙う。山南さんが小さく笑った。
「甘いな」
 翼が風を起こす。白い羽根が風に乗って舞った。ただの羽根じゃない。一枚一枚が鋭利な刃物に変化している。
「ちくしょう、技のパターン多いな!」
 ラフ先生がスキルコマンドを解除する。双剣を盾代わりに、羽根を防いだ。でも、全部は防ぎ切れず、むき出しの腕やおなかに傷が走る。
「大丈夫ですか?」
「ああ、ダメージは深くない。しかし、戦いにくいな」
「空中戦、苦手ですか?」
「そういうんじゃなくて。心情的に、戦いたくねぇんだよ。山南敬助。アンタの信念も末期も知ってる。生きてほしかった人物だ。なのに、この手でつぶせってのか。何てストーリーだよ?」
 山南さんが翼をひるがえす。衝撃波が氷のバリアを砕いた。
「ワタシの信念を知るならば、なおさらだ。迷わずに戦い、ワタシを斬れ!」
 山南さんが刀を構えた。急降下で、突っ込んでくる。
 沖田さんが、吠えた。
「ああぁぁぁぁああああっ!」
 刀の柄を握る。足を踏み込む。神速の抜き打ち。
 ぶつかり合う刀の間に火花が散った。高く澄んだ金属音が、一つ。
 弾き飛ばされた山南さんが空中で体勢を立て直す。右手にあるのは、半ばで叩き折られた刀。
「さすがだな、総司」
 沖田さんは刀を振り抜いた体勢のまま、どこでもない場所をにらんで言った。
「おいで、ヤミ。本気で戦おう。力ずくで、山南さんを連れて帰るよ」
 二股の尻尾の黒猫が、沖田さんに駆け寄った。剣士の体が黒猫を取り込んで、黒いチカラが、ぶわりと沸き立つ。
 山南さんが、折れた刀を捨てた。バトルフィールドのCGが、べしゃりとつぶれる。力場に入った。
「さあ、来い。遠慮なく刀を振るえ!」