大津へ向かう道中、沖田さんはよくしゃべった。
「近藤さんと土方さんは多摩の出身なんだ。多摩は江戸よりも西にあって、武蔵国の田園地帯だ。土方さんの家のそばには、東海道の宿場町もあって、源さんの実家は上位の武家が泊まる宿の仕事もしていた」
 アタシは沖田さんの隣に並んでいる。沖田さんの横顔に軽いデジャヴを覚えた。誰かに似ている。それが誰かって、考えるまでもなかった。壮悟くんだ。額から眉間、鼻筋までの形が本当にそっくりだ。
 沖田さんは、一つ咳をした。セリフの間に、ときどき咳が入る。
「近藤さんは道場を営んでいた。試衛館《しえいかん》っていう道場で、江戸の市谷柳町にあった。ボクは九つのころに道場に住み込み始めた。親はとっくに死んでたし、嫁いだ姉の厄介になり続けるわけにもいかなかったしね。新撰組の始まりは、この試衛館だ」
「斎藤さんたちとは、試衛館のころから一緒に修行していた仲なんですか?」
「うん。斎藤さんは流派が違うけど、試衛館が気に入っちゃったみたいで。道場は貧乏だけど、にぎやかだったよ。大工仕事や畑仕事を手伝って、食べ物を分けてもらったりもして。交代で多摩まで剣術の出張授業に行ってた時期もあったな」
「楽しそうです」
「もちろん楽しかったよ。何につけてもよく張り合ってたし、ケンカもしたけど、仲がいいからそういうことができたんだなって、今にして思う」
「仲がいいから、ですか」
 今の新撰組はたぶん、そのころとはまったく違う組織へと移り変わっている。斎藤さんや永倉さんは、着飾った近藤さんを批判した。沖田さんも土方さんも、黙っていなくなった山南さんの胸の内を読めない。
 沖田さんは現実から目をそらすように、楽しげな調子で思い出話を続ける。
「ボクたちの中でいちばん正統派の武士は、山南さんだな。学問家で、義理堅くて、穏やかで。剣術の指南のときでも冷静なんだ。相手のことをよく見極めて指導する。だから、山南さんに教われば伸びる。ボクはどうしてもそういう教え方ができないんだけどさ」
「沖田さんは山南さんのことが好きなんですね」
「うん、尊敬してる。ずっと一緒にいてほしい、兄のような人だ」