炊事場には、優しいニコニコ顔のおじさんがいた。サムライらしいヘアスタイルをしている。頭のてっぺんだけを剃っていて、後ろ髪をちょんまげにしたスタイル。
 そうそう、新撰組のメンバーは案外、髪を剃っていない。前にこのことを朝綺先生に尋ねてみたら、「江戸時代のスタンダードをぶっ壊してやろうっていう幕末の若者には、剃ってねぇやつもけっこういたみたいだぞ」という答えが返ってきた。
 サムライヘアのおじさんは、料理人みたいに、たすき掛けをして、前掛けを付けていた。背筋がピンと伸びて、品がいい感じだ。
「アナタたちが噂の助っ人か。歌姫ミユメと、剣士ラフ。お初にお目にかかる。私は井上源三郎という」
 ラフ先生はその人を知っていた。
「おお、アンタが源さんか。やっぱイメージどおりだ」
「ワタシのことをご存じか。総司が何か言っていたかな?」
 単純に、ラフ先生が新撰組に詳しいからなのだけれど。アタシは源さんに訊いた。
「沖田さんを見かけませんでした?」
「総司を? いや、見ていないよ。稽古の指南役でもしているんじゃないかい?」
「庭には、いないんです」
「そうか。アイツの稽古は厳しすぎて、不評だしな」
「厳しすぎるんですか?」
「ああ。総司が要求する水準は、一般の隊士にとって高すぎる。総司は剣の天才だ。同じようにできる者ばかりじゃない」
「なるほど」
「その点、ワタシは剣が下手だからね。同じように下手な者に教えるのは得意だよ」
 源さんが炊事場にいたのは、当然ながら、料理をするためだった。京に出てくる前、江戸に住んでいたころは、近藤さんの道場にみんな集まっていて、源さんが道場の料理係だったんだって。
 人がよさそうな源さんは、沖田さん探しのヒントをくれた。
「稽古に出ているわけでも、部屋にいるわけでもない。近藤さんや土方さんとも一緒にいなかった。となると、屯所の外かな。子どもの声がするほうを探してみるといい」
「ありがとうございます!」
 ゲームをやり慣れていれば、ストーリーが進んだぞっていう瞬間が直感でわかるようになる。今のセリフもそう。もうすぐ沖田さんをつかまえられる。