廊下から静かな足音が聞こえた。
「斎藤、ちょっといいか?」
 障子が開けられる。そこに立っていたのは、副長の土方さんだった。
「なんだ、全員ここにいたのか。このきまじめな斎藤と一緒にいて、楽しいか?」
「きまじめ、か。土方さんに言われたくない」
「オレは、羽目を外すときは外している。むさくるしい屯所ではなく、華やかな花街でな。浮名を流すのも男のたしなみだぞ、斎藤」
 土方さんは、ずば抜けてキレイな顔立ちをしている。髪も服もピシッとしていて、いかにも大人っていう「きちんと感」がセクシーだ。ただ、少しナルシストかも。土方さんの部屋にお邪魔したときには、箱いっぱいのラブレターを自慢された。
 斎藤さんはクールに、土方さんのモテ自慢を受け流した。
「副長自ら足を運ぶとは、何か機密に関わる用事か?」
 土方さんは眉間にしわを寄せた。
「ああ。よくないことが起こった。斎藤と、シャリンとニコル。探してほしい人物がいる。行き先はつかめているから、居場所を確認して、オレに報告を上げてほしい」
「わかった」
「詳しくはオレの部屋で話す。来てくれ」
 斎藤さんはシャリンさんとニコルさんを連れて、部屋を出ていった。
「秘密の任務なんですね」
「斎藤は、土方のスパイとして働いてるんだ。戦って強いだけじゃなく、頭が切れる男なんだろうな」
「そ、そうなんですね。へー」
 ラフ先生と二人きりになってしまった。気まずい。昼間のことを思い出してしまう。朝綺先生が恋人と過ごしていた、甘い時間のことを。
「さて、ミユメ。斎藤のルートに進展があったってことは、オレたちのほうもストーリーが進むはずだ。沖田を探しに行こうぜ」
「あ、は、はい、そうですねっ」
 アタシたちも部屋を後にした。庭で稽古をしている中に、沖田さんの姿はない。
 藤堂さんがアタシに気付いて、飛んできた。
「あっ、ミユメ! 暇なの?」
 藤堂さんは、小柄で愛敬のあるイケメンさんだ。気さくでしゃべりやすいけれど、アタシは目のやり場に困った。木刀をかついだ藤堂さんの上半身、裸なんですけど。
「お、沖田さんを探しているんです」
「総司? このへんにはいないよ」
 ピアズのCGはリアルすぎる。藤堂さんの裸の胸に、光る汗が流れた。アタシはドキッとしてしまう。ピアズに匂いは実装されていないけれど、リアルだったら、汗と肌の匂いがするはずだ。
 また、昼間のことが頭によぎった。壮悟くんの肌の匂いを思い出した。
 アタシは藤堂さんから顔を背けた。
「沖田さんが行きそうなところ、知りませんか?」
「んー、どこだろ? 近藤さんに付いていったわけじゃなかったし、部屋にもいなかったしなぁ。たまに炊事場でつまみ食いしてるけど」
「炊事場、ですか?」
「なあ、それより、ミユメ。総司じゃなくてオレと……」
「失礼します!」
 アタシは回れ右した。縁側を速足で歩き出す。ラフ先生が笑いながら追いかけてきた。
「藤堂平助のこと、苦手か?」
「苦手っていうか」
「親しみやすいキャラだと思うけど」
「フレンドリーすぎます」