沖田さんは刀を構えた。と思うと、もう足は地面を蹴っている。
 速い。沖田さんのパラメータ、格段に上がっている。
 ラフ先生が、攻撃の手を緩めずに叫んだ。
「よっしゃ、連携して一気に叩くぞ! ミユメ、援護はいらねえ! コンボが途切れねぇように、波状攻撃かけるぞ!」
「わかりました!」
「さぁて、何連撃いけるかな? ヒットポイント高いヤツは、叩き甲斐があっていいね」
 怒涛の連続攻撃だった。
 攻撃を食らったヘビがぐらりと揺らいでも、二人の戦士は、倒れる隙さえ与えない。ラフ先生の双剣は破壊力バツグンだ。沖田さんの刀は精密で素早い。
 アタシは――。
「多重―リピート―!」
「氷槍―アイスランス―!」
 凍った魔法の槍を上下左右から繰り出し続ける。威力の低い、でも、小回りの利くスピーディな攻撃。これがアタシの役目だ。ラフ先生と沖田先生の攻撃の間をつないで、ヒットの連鎖を途切れさせない。
 BPM300。超アップテンポに鼓動がなじむ。呼吸が弾む。笑みがこみ上げる。バトルを楽しむ自分がいる。敵を倒すことが楽しくて、楽しくて。
 これが本性だとしても驚かない。
 アタシはおとなしくなんてない。
 夢を持てば、攻撃的にもなる。生き生きとして生きるためには、ねえ、むき出しの闘争心も必要でしょう?
「よっしゃ、あとちょい! 五、四、三、二……!」
 ラフ先生のカウントに合わせて。
「氷槍―アイスランス―!」
“c-ya”
“単焔薙―タンエンテイ―”
 三人同時に攻撃を叩き込んだ。一瞬の静寂。そして、ヘビの体がひび割れる。亀裂から青い光が染み出して、光が急速に、強烈に広がって。
 ヘビは光って弾けて、消えた。
 一方的な展開でバトル終了。各種ボーナスがキラキラの効果音とともに表示される。アタシは勝利のポーズも省略しない派だ。きらりんっと光って、戦闘コスチュームが解除される。
 旅館の座敷の風景がディスプレイに立ち現れた。薄暗い。
「さて、これで……うっ」
 刀を拭って鞘に収めた途端、沖田さんがうめいてふらついた。
「沖田さん!」
 アタシは駆け寄った。
 ヤミが、にゃん、と鳴いた。沖田さんの猫耳と尻尾は消えている。ステータスを上昇させる合体が解けて、沖田さんの体に一気に負担がかかったらしい。
 ラフ先生が沖田さんのそばにひざをついた。
「ダメだ、気絶しちまった。オレが背負うよ。と思ったけど、剣が邪魔か。しゃーない。お姫さま抱っこするか」
 ラフ先生が沖田さんを抱え上げた。
 沖田さんは青白い顔でぐったりしている。乱れた黒髪がサラリと流れた。うっすら開いた唇が、かすかにあえいでいる。
 アタシは思わず手を叩いた。
「絵になりますね!」
 アタシ、実はちょっとだけBLをたしなむのです。写真撮っちゃってもいいでしょうか? なんちゃって。
 ラフ先生はガクッとうなだれた。
「男が男をお姫さまだっこって、そんなもん、絵にならんでいいよ」
「えー。誉めてるんですよ?」
「ゴメン、全っ然、嬉しくねえ」
「そうなんですか?」
 部屋の外では、近藤さんが一人、座り込んでいた。くたびれ果てているけれど、大きなケガもない。近藤さんは沖田さんを見て顔をこわばらせた。
「総司? おい、総司は……」
「眠っているだけです。体調が悪いのに無理して、疲れたみたいで」
「なんだ、そうか。オマエたちも無事で、よかった」
 外がにぎやかだ。アタシは耳を澄ませた。聞いたことある声が耳に届く。ラフ先生も気付いたみたい。
「土方隊、到着したのか」
 近藤さんがうなずいた。
「さっき着いた。池田屋のまわりを固めてくれている。敵を逃がさなかっただけじゃない。よそ者の加勢を入れず、手柄を新撰組だけのものにした」
「よかったです。これで新撰組も評価されますよね。賞金、たくさんいただけたらいいですね」
 近藤さんは、大きな口で豪快に笑って、アタシの頭をポンポンと優しく叩いた。
「今回はオマエたちにもずいぶん助けられた。さすが、総司と斎藤が認めるだけのことはある。これからも手伝ってもらえると嬉しいんだが。どうだ?」
 近藤さんのまっすぐに見つめてくるまなざしは、熱くて力強い。頼もしいリーダーだ。この人についていけば安心だって、不思議なくらい自然と感じさせる笑顔。
「手伝わせてもらいます」
「右に同じ」
 アタシとラフ先生の答えに、近藤さんは、顔をクシャクシャに笑わせてうなずいた。にゃん、と足下のヤミも嬉しそうだった。