そのときだった。
「局長、いました! 連中です、間違いありません。三条通の池田屋に潜んでいます!」
 隊士の一人が近藤さんに報告した。ザワッと緊張が走る。
 ラフ先生が楽しそうに笑った。
「よっしゃ、池田屋事件、まもなく勃発か。いいね。ワクワクする」
 池田屋というのは旅館の名前だった。
 映画やゲームでしか見たことのない、純和風の造りだ。時間が遅いから、表戸は閉ざされている。中から明かりが洩れていた。
 近藤さんが表戸を叩く。表戸の内側で、鍵が開けられる音。次いで、表戸が少しスライドした。
「こなぃ遅ぉに、どちらさんどす?」
 柔らかな物腰の男の人の声。池田屋のご主人だろう。
 次の瞬間、すごい勢いで、近藤さんが表戸を全開にした。
「新撰組の御用改めであるッ! 無礼すまいぞッ!」
 男の人が、ひぃっと悲鳴をあげた。隊士の一人が男の人を押さえ込む。
 近藤さんが大声で指示を出した。
「総司、新八、平助はオレに続け! ミユメとラフ、オマエたちもだ! 武田はトシたちを呼んで来い。ほか全員は外を固めろ! 多勢に無勢だ、捕縛の余裕はない。敵と見たら、すべて斬れ!」
 ラフ先生はブーツの内側から隠しナイフを抜いた。
「背中の剣は使わないんですか?」
「デカすぎて使い物にならねぇよ。突入した後、力場に入ってから使うさ」
「なるほど」
 アタシは素早くコマンドを入力した。エコーのかかった声で、叫ぶ。
「変身―ドレスアップ―!」
 くるくるキラキラと、光のリボンのCG。新撰組の皆さんが目を丸くしている。演出が細かすぎて、ちょっと恥ずかしい。
 小柄なイケメンさんがすっ飛んできた。
「すっげぇ、かわいい! しかも強いの? 最高じゃん! 名前、教えてよ。後でちょっと飲みに行こうぜ。いい店、知ってんだ」
「あ、えっと」
「オレ、藤堂平助《とうどう・へいすけ》っての。剣の腕には自信があるぜ!」
 近藤さんがつかつか近寄ってきて、藤堂さんにゲンコツを落とした。
「やんちゃもいい加減にしろ、平助! 気を引き締めてかからんと、死ぬぞ」
「わかってるってば。とにかく斬りまくりゃいいんだろ」
 藤堂さんは口をとがらせた。沖田さんが藤堂さんの頭を撫でてあげている。では改めて、と近藤さんが鋭い目をした。
「新撰組、参るッ!」
「おうッ!!」
 アタシたちは、池田屋の表戸から突入した。
 その途端、敵が廊下を走って斬りかかってくる。
 藤堂さんが飛び出した。
「一階はオレと新八に任せろ! 近藤さんと総司たちは上へ!」
「引き受けた!」
 近藤さんは真っ先に階段に突進した。見張りらしき男が恐怖に固まっている。近藤さんは容赦なく、見張り男をやっつけた。倒された彼がゴロゴロと階段を転げ落ちる。