ほどなくして、行く手に人影が見えた。浅葱《あさぎ》色の羽織の人々だ。沖田さんが大きく手を振った。
 浅葱色の人々の先頭には大柄な男の人がいて、沖田さんに気付くと相好を崩した。
「なんだ、総司か。斎藤も。遅かったじゃないか」
「近藤さん、ゴメンね。変な連中にからまれちゃって。でも、ちゃんと退治してきたよ」
 アタシたちは新撰組と合流した。近藤さんという人を含めて九人いた。プラス、沖田さんと斎藤さん。そしてアタシたち四人。
 近藤さんがアタシたちを見た。
「総司、彼らは?」
「そのへんで拾ってきた。けっこう強いよ。斎藤さん公認だし」
「総司と斎藤が認めるなら、問題ないな。オレは近藤勇《こんどう・いさみ》。新撰組の局長だ。さて、覚悟はできているよな? 今宵の討ち入りは命懸けだぞ」
 近藤さんはニッと笑った。表情がよく動く。口が大きくて豪快な印象だ。
 斎藤さんが音もなく進み出た。
「近藤さん、土方《ひじかた》さんたちは?」
「ああ、トシは縄手通《なわてどおり》を北上している」
「土方さんのほうに、力場の使い手は?」
「配置できていない。山南は屯所の警備に回っているし、ほかの使い手は、また脱走しやがった」
 斎藤さんは、ふぅっと息をついた。アタシたち四人を順繰りに見る。
「オレは土方さんのほうへ加勢に行く。アンタたちのうち二人、オレと一緒に来い」
「えっ!」
 思わず、アタシは声を上げた。せっかく四人のピア・パーティを組んだのに。
 シャリンさんが腰に手を当てた。
「こういう分岐があるなんてね。どうする? どんな組み合わせで行くの?」
 ラフ先生が即答した。
「オレとミユメ、シャリンとニコルっていう組み合わせだろうな。攻撃と補助のバランスを取るほうがいい」
 ニコルさんがうなずいた。
「賛成だね。バランスという意味では、もう一点。ボクとラフは新撰組の知識がある。ミユメちゃんとシャリンは詳しくないよね。ボクとしては、知識の有無で楽しみ方がどう変わるのか見たいから、ラフとは組みたくない」
 シャリンさんが髪を払った。
「わかったわ。ワタシはミユメと組んでみたかったんだけど。チャンスは、まだ先にもあるわよね。今回は、ニコルと行くわ」
 ということは。
 アタシは、ラフ先生と一緒に行動できるの? わぁ、改めて、嬉しい!
 斎藤さんが重ねて言った。
「どの二人がオレと一緒に来るんだ? あまり待たせるな」
 ラフ先生が肩をすくめた。
「どーするよ? オレはどっちでもいいけど」
「ボクも、こだわりなし。永倉新八《ながくら・しんぱち》がいちばん好きだし」
「相変わらず、妙なとこ突いてくるよな」
「妙かな?」
 話に割り込んだのは沖田さんだった。アタシの手首をつかんだままだ。
「ミユメはボクがもらっていい?」
「も、もらうって、アタシ、品物じゃないんですよ?」
 沖田さんの手が一瞬、離れた。すぐにまた、手のひらに引っ張り判定。アタシの手が再びつかまっている。手をつながれている。
「つれないな、ミユメ。ボクはキミのこと、けっこう気に入ったんだけど。ミユメは斎藤さんのほうが好きなの?」
 沖田さんは、つないだ手を持ち上げた。アタシの目の前に、見せつけるみたいに。
 こんなこと、現実ではされたことがない。そもそも男の人と手をつなぐなんて、ちょっと待って、信じられない。
 リアルでキレイなCGのせいで、ダメ。沖田さんのいたずらっぽい目はキラキラして、吸い込まれそう。アタシはドキドキして言葉が出ない。
 ラフ先生がアタシの肩に手を載せた。
「しゃーねぇな。沖田のワガママに付き合ってやろうぜ。オレとミユメが沖田組。シャリンとニコルは、斎藤と行ってくれ」
「了解よ。ミユメ、それじゃあね。ラフも沖田も、ミユメを困らせないのよ?」
「あーはいはい。わかってるよ、お姫さま。そっちも気を付けて行けよ」
 シャリンさんとニコルさんがパーティから外れた。斎藤さんは、頭上でくるりと舞う白いハトを追い払うようにして飛び立たせると、東の方角を指差した。三人は駆け出した。あっという間に、後ろ姿が闇に消える。
 そんな様子を確認しながら、アタシは別のことにも気を取られていた。
 アタシの手を握る沖田さんの手の甲に、赤黒い紋様が浮かんでいる。
「これは、何……?」
 紋様の外枠は円形で、内側に複雑なデザインが描き込まれている。まだ描きかけのようで、円がつながっていない。
 つながっちゃいけない気がした。だって、妖志士たちの胸にもあったから。赤黒く完成した、その円環の紋様が。