アタシが沖田さんにつかまっているから、ラフ先生たちもついてきた。ニコルさんが新撰組の二人に尋ねた。
「確認したいんだけど、今は何年何月何日?」
 斎藤さんが答えた。
「元治元年六月五日だ。アンタたちにとっては、西暦のほうがいいか」
「そうだね。西暦も併記してくれるシステムならありがたい」
「一八六四年七月八日だ。日本じゅうが動乱の気運に沸き返っている。京の町は特にな」
 シャリンさんが頭上にクエスチョンマークをポップアップした。日本の歴史には詳しくないのかもしれない。それはアタシも同じだ。
 ニコルさんが話を補足した。
「一八六四年っていうのは、まもなく明治政府が立とうとするころだよ。いわゆる鎖国の方針は、すでに解かれた後だ。日本は外国との通商を始めている」
 ラフ先生がさらに付け加えた。
「日本じゅうが今、これからどういう政治をしていくかをめぐって、争ってんだ。大きく分ければ、二つの派閥になる。徳川幕府による伝統的なシステムを守るべきか、新しい政府をつくって開明的な政治を目指すべきか」
「ラフ、それはちょっと雑すぎない? 将軍や大名の権威とか、天皇の権限や立ち位置とか、外国に対するスタンスとか、争点はもっといろいろ」
「わかってるって。でも、説明しすぎてもゴチャゴチャするだけだろ? 尊王だの攘夷だのって話は、出てきた時点で場合分けして説明すりゃあいい」
「まあ、確かにね。さっきだって、尊攘派じゃなくて倒幕派としか言ってなかったし。幕府を守るか倒すか、そこだけにしぼってもいいか」
 沖田さんは話の流れを読んだらしく、アタシたちを振り返って告げた。
「ボクたち新撰組は、幕府を守る立場だよ。徳川将軍の意を受けて、京の町の治安維持に努めている。抗争の火種を見付けたら、さっさと刈り取る。それがボクたちの役目」
 ニコルさんが嬉しそうにニコニコして言った。
「話をもとに戻そうか。一八六四年七月八日の今日。新撰組は、敵対する志士たちの討伐を決行する。志士たちがテロの計画を立てていたんだ」
 斎藤さんが説明を引き継いだ。
「連中の狙いは、京の町を焼き討ちにし、その混乱に乗じて、天皇を誘拐することだ」
 沖田さんが刀の柄に手を触れた。
「京の町で暴れようなんて、この新撰組が許さないよ。だから斬りに行く」