読むだけじゃ足りない。書いてみたいと思ったのは、ずいぶん昔。
 おれの知ってる世界は白ばっかりだ。病室の白。医者や看護師の白衣。自分の肌の青白さも知ってる。病名さえ、「白」。
 現実世界の白は嫌いだ。でも、画面の中の白はいい。
 ディスプレイに表示させた白いノートに、文字を打ち込んでいく。一語一語、地道に紡いで、キャラクターに息を吹き込んで、彼らを出会わせて、ときに戦わせて、時代を動かして。
 そうすれば、ほら。おれの物語が、色鮮やかに動き出す。生と死のはざまを知ってるから、おれには書ける。
 おれは今、病室につながれている。
 だから、代わりに、おまえらが暴れてみせろよ。おれがおまえらの晴れ舞台、ここに用意したから。
「完成させなきゃ、死ねない」
 全部だ。おれの中にある全部をぶち込んで、とっておきの物語を書く。
 時代の流れに抗いながら、命の意味に惑いながら、懸命に生きたおまえらの物語を、おれがこの手で息づかせてみせる。