確かに、朝ごはんを食べ始めるまでに一時間近くかかった。
 テーブルのそばに大きな機材が置かれてる。冷蔵庫と匹敵するくらい大きな装置だ。
「これ、何の機械?」
 あたしは、料理をするおにいちゃんに尋ねてみた。
「朝綺に訊いてみなよ。まあ、見てればわかると思うけど」
 おにいちゃんのメガネは、料理の湯気に薄く曇ってる。朝ごはんのメニューは、トーストとスクランブルエッグと野菜スープ。うちでも、おにいちゃんがよく作るメニュー。
 朝綺がテーブルに着くと、機材の正体が判明した。ロボットアームのメインコンピュータだった。
 二本のロボットアームは、朝綺の左右のテーブルに固定された。アームからは、ごちゃごちゃしたコードが伸びてる。コードはこんがらがりながら、メインコンピュータに連絡してる。
「レトロな造りね」
 朝綺は、ふぅっと力を抜くように笑った。
「このデカブツは、大学時代のサークルのボックスに転がってた。四十年くらい前の試験作ってとこだな。修理したらこのとおり、キッチリ動くようになったんだぜ」
「へ、へぇ」
「古いマシンだけど、操作性や最小出力は、最近のやつと大差ないんだぜ。最近のロボットアームの利点は車いすにも装着できることだけど、装着作業は界人に任せることになる。結局、おれひとりじゃ使えない。つまるところ、使い勝手は、最新のも旧式のも変わらない」
 しゃべってると、ほんとにラフだ。ちょっと荒っぽい口調で、どことなく自信に満ちてて。
「操作はどうやってるの?」
「ゲームのタッチパネル型コントローラをカスタマイズした。おれ、手首から先は、まだそれなりに器用だからな」
 ほら、自信のある話し方をする。
「あんたの器用さは知ってるわ。ゲームの操作能力は、あたしと並ぶレベルでしょ。相当、うまいわよ」
「サンキュ。でも、ショートコマンドだけだよ。それより、その右手の親指はどうした?」
「べ、別に、なんでもない」
 自分で噛みついただなんて、言えるはずない。
 緑色のエプロンが似合うおにいちゃんは、三人ぶんのカップにティーオーレを注いだ。
「じゃ、食べようか」