開放的な印象のフアフアの村は、結界によって守られていた。道の両サイドには、色とりどりのハイビスカスが咲き乱れている。
村の入口で、ヒイアカがアタシたちを待っていた。
「皆さま、ようこそお越しくださいました。ここが豊饒の地、フアフアの村です。ホヌアに用意された四つのミッションを旅する間、皆さまにはフアフアの村を拠点にしていただきます。まずは、どうぞこちらへ」
ヒイアカが優雅な身のこなしで歩き出した。アタシたちはその後についていく。ヒイアカが足首に着けた木製の鈴のアンクレットが、歩くたびに、涼しい音を鳴らす。
「それにしても、脳天気なステージね。一つ前のステージが戦場だったから、気休めになるわ」
「同感だね。南国ムードっていいよな。キャラの露出度が高くてさ」
アタシは遠慮なく、ラフの足を踏んづけた。
フアフアの村では旅の必需品を買い物できる。武具や防具。傷や状態異常を治療するための薬。食材や食料。
それと、ロミロミと呼ばれるマッサージが人気らしい。特殊な効果をもたらすんだって。
「フアフアの村に象徴されるとおり、ホヌアは平和です。外敵も内乱もありません。森羅万象の神々や精霊が、人の子とともに住まう島です」
「ふぅん。それで、ミッションの内容はどうなってるのかしら?」
ヒイアカが足を止めて、アタシたちに向き直った。心なしか、頬が赤い。
「実はワタシ、二つ先の新月の日に結婚するのです。その婚姻の儀のために必要なものがありますの。月と星の祝福を受けた宝石『ホクラニ』です。ホクラニをつないで、首飾り《レイ》を作りたいと思っています。皆さまには、ホクラニを回収していただきたいのです」
ホヌアの人々は昔から、月の暦を大切にしている。
新月は次第に満ちて、満月は次第に欠けて、やがて再び、月のない夜を迎える。それは、三十日間の物語。夜ごとに違う顔を見せる月は、ホヌアでは、毎日異なる三十の名で呼ばれている。
かつて、いにしえの時代のできごと。神々《アクア》は月が美しく変身するさまを誉めたたえ、三十の名のために三十の輝夜石《ホクラニ》を生み出した。
そして、あるとき。神々《アクア》の末娘にして歌と踊りの申し子であるヒイアカは、天界の宴で極上の舞を披露した。列席した神々《アクア》はヒイアカの舞を喜んだ。その褒美として、ヒイアカは三十個のホクラニを贈られた。
「ホクラニには神々《アクア》のお力が宿っています。それを手にした者の祈りや願いを叶えることができるのです。ワタシは、友人に困ったことが起こるたび、ホクラニをお貸ししてきました」
ニコルは肩をすくめて、先回りして言った。
「貸したものが返ってこないから、ボクたちを使いっ走りにする。要するに、そういうミッションなんだね」
ヒイアカは困った様子で、首を左右に振った。ココヤシのブラに収まりきれない胸が、たぷんぷるんと弾む。
「ワタシ、頼まれると断れない性分なのです。そもそも、普段ワタシはホクラニを使いませんし。それでしたら、必要とするかたに使っていただくほうがいいですよね?」
「このヒイアカって女、バカが付くほどのお人好しね」
ヒイアカは胸の前で両手の指を組み合わせた。両腕の間に挟まれた胸が、ぎゅむっと形を変える。アタシの隣で、ラフがかすれた口笛を吹いた。
「三十個すべてのホクラニを回収する必要はありません。ワタシの婚姻を知ると、ほとんどのかたはホクラニを返してくださいました。お祝いの品まで贈っていただきました」
残りはいくつ? と言いかけたアタシと、ラフの声が重なった。ニコルが、ふふっと喉を鳴らす。ムカつく。
ヒイアカは続けた。
「あと四つだけなのです。皆さまには、それら四つのホクラニを回収していただきたいのです」
村の入口で、ヒイアカがアタシたちを待っていた。
「皆さま、ようこそお越しくださいました。ここが豊饒の地、フアフアの村です。ホヌアに用意された四つのミッションを旅する間、皆さまにはフアフアの村を拠点にしていただきます。まずは、どうぞこちらへ」
ヒイアカが優雅な身のこなしで歩き出した。アタシたちはその後についていく。ヒイアカが足首に着けた木製の鈴のアンクレットが、歩くたびに、涼しい音を鳴らす。
「それにしても、脳天気なステージね。一つ前のステージが戦場だったから、気休めになるわ」
「同感だね。南国ムードっていいよな。キャラの露出度が高くてさ」
アタシは遠慮なく、ラフの足を踏んづけた。
フアフアの村では旅の必需品を買い物できる。武具や防具。傷や状態異常を治療するための薬。食材や食料。
それと、ロミロミと呼ばれるマッサージが人気らしい。特殊な効果をもたらすんだって。
「フアフアの村に象徴されるとおり、ホヌアは平和です。外敵も内乱もありません。森羅万象の神々や精霊が、人の子とともに住まう島です」
「ふぅん。それで、ミッションの内容はどうなってるのかしら?」
ヒイアカが足を止めて、アタシたちに向き直った。心なしか、頬が赤い。
「実はワタシ、二つ先の新月の日に結婚するのです。その婚姻の儀のために必要なものがありますの。月と星の祝福を受けた宝石『ホクラニ』です。ホクラニをつないで、首飾り《レイ》を作りたいと思っています。皆さまには、ホクラニを回収していただきたいのです」
ホヌアの人々は昔から、月の暦を大切にしている。
新月は次第に満ちて、満月は次第に欠けて、やがて再び、月のない夜を迎える。それは、三十日間の物語。夜ごとに違う顔を見せる月は、ホヌアでは、毎日異なる三十の名で呼ばれている。
かつて、いにしえの時代のできごと。神々《アクア》は月が美しく変身するさまを誉めたたえ、三十の名のために三十の輝夜石《ホクラニ》を生み出した。
そして、あるとき。神々《アクア》の末娘にして歌と踊りの申し子であるヒイアカは、天界の宴で極上の舞を披露した。列席した神々《アクア》はヒイアカの舞を喜んだ。その褒美として、ヒイアカは三十個のホクラニを贈られた。
「ホクラニには神々《アクア》のお力が宿っています。それを手にした者の祈りや願いを叶えることができるのです。ワタシは、友人に困ったことが起こるたび、ホクラニをお貸ししてきました」
ニコルは肩をすくめて、先回りして言った。
「貸したものが返ってこないから、ボクたちを使いっ走りにする。要するに、そういうミッションなんだね」
ヒイアカは困った様子で、首を左右に振った。ココヤシのブラに収まりきれない胸が、たぷんぷるんと弾む。
「ワタシ、頼まれると断れない性分なのです。そもそも、普段ワタシはホクラニを使いませんし。それでしたら、必要とするかたに使っていただくほうがいいですよね?」
「このヒイアカって女、バカが付くほどのお人好しね」
ヒイアカは胸の前で両手の指を組み合わせた。両腕の間に挟まれた胸が、ぎゅむっと形を変える。アタシの隣で、ラフがかすれた口笛を吹いた。
「三十個すべてのホクラニを回収する必要はありません。ワタシの婚姻を知ると、ほとんどのかたはホクラニを返してくださいました。お祝いの品まで贈っていただきました」
残りはいくつ? と言いかけたアタシと、ラフの声が重なった。ニコルが、ふふっと喉を鳴らす。ムカつく。
ヒイアカは続けた。
「あと四つだけなのです。皆さまには、それら四つのホクラニを回収していただきたいのです」