ボーナスイベントのストーリーは、ヒイアカの恋の物語だ。
「実はワタシ、アナタがたに助けていただいたことがあるのです。ワタシとロヒアウの恋のなれそめをお話しさせてください」
 っていうわけで、過去の恋バナを追体験するっていう筋書きだった。
 ヒイアカのいちばん上の姉、ペレは、火山の女神だ。美人で、気性が激しくて、プライドが高い。ペレはあるとき、一人のイケメンに目を付けた。その男こそ、ヒイアカと相思相愛のロヒアウだった。
 ロヒアウはペレにさらわれてしまう。ヒイアカが大事にしてる森や花畑をペレが人質にする格好で、二人を自分の思いどおりに操ったんだ。
 そこに待ったをかける役が、アタシたち。
 火山地帯はトラップだらけのエリアだった。蒸気の噴出、崩れやすい足場、マグマの川。ちょっとミスったら、ヤケドで痛い目を見る。
「アタシが先に行くから、アンタたちはついてきなさいよ」
 アバターの敏捷性とアタシ自身の操作テクニックを総合したら、やっぱりアタシがいちばんトラップへの対応力が高い。
「張り切ってるな、お姫さま」
「当然でしょ!」
「クーナの件、気にしてんのか?」
「バトルで置いてけぼりをくらうなんて、屈辱もいいところだったわ」
「すまん」
 でも、体が動いたとしても、クーナと戦えた自信はない。恋人の目の前で相手を倒すなんて。
 火山地帯にはヒイアカも同行した。ラフとニコルがめちゃくちゃ喜んだ。
「すっげー! ヒイアカ、最高! 踊る、走る、それに合わせて胸が揺れる!」
「目の保養だねー」
 ほんっとに男ってバカ。
 ストーリー自体は、アタシも気に入った。女王さま気取りのペレを、健気なヒイアカがやっつけるんだもの。ペレがペットにしてるマグマのサメがボスだった。倒した瞬間は、ほんとにスカッとした。
 入手できたアイテムは、レア度も効力も高かった。特に重要だったのが、火山の女神ペレの加護を受けた御守り。最後のミッションは雪山が舞台だから、防寒具代わりの御守りは必須アイテムだ。
 この際だから、火山で入手できるアイテムをすべて回収した。フアフアの村に戻ると、ラフがシナリオの途中経過を報告した。
「シナリオ執筆は完了。ピアズの管理部に送信したよ。審査と反映に一週間くらいかかるらしい。それまで、フアフアの村でミニゲーム三昧だな」
「わかったわ。アタシのピアズ史上、いちばん長いミッション待ちね」
「のんびりバカンスを楽しもうぜ」
 のんびり楽しむって、どうすればいいのかよくわかんない。と思ってたんだけど、ラフやニコルが楽しみ方を知ってた。
 たとえば、どうでもいい買い物をすること。バトルでの効果とかを度外視して、いろんな服を試着してみた。おもしろ半分でニコルに女装させたら、似合いすぎて逆におもしろくなかった。
 驚かされたのが、ラフが正装した姿だった。ビジネススーツ、タキシード、貴公子の衣装。髪をキッチリさせて、呪いの紋様を隠すだけで、ほんとにもう。
「反則でしょ」
 ピアズのキャラデザ、カッコよすぎるってば。
 アタシはヒイアカに恋バナをさせるのも気に入った。なんてことないのろけ話を聞かされるだけ。でも、それが楽しい。
「アタシには友達がいないから」
 ポロリとこぼしてしまった本音。ラフはアタシの頭を優しくポンポン叩いた。前も同じようにしてくれたことがあった。
「このアクション、裏技な。修得方法は企業秘密だぜ」
「……バカ」
「ハグのほうがいい?」
「大バカ!」
 そのバカに励まされて笑わされて、画面の中だけに限られた世界は、退屈な現実を忘れさせてくれる。