ラフはカイから話を聞き出していた。
「カイは三人の兄貴をクーナにやられてる。漁の禁忌《カプ》の日に海へ出た罰だったみたいだけど」
「自業自得じゃないの」
「でも、カイにしてみりゃ、クーナは兄貴の仇だ。で、一年前、村の力比べで優勝した日、カイはクーナに勝負を挑んだ」
「結果は?」
「引き分け。カイはクーナの土手っ腹に槍を打ち込んだ。でも、とどめを刺す前に海から陸へ放り出されて、戦闘不能。クーナは槍を口にくわえて引っこ抜くと、どこかへ逃げ去った」
ちょっと待って。今、変なこと言わなかった?
「口にくわえて引っこ抜く?」
ラフはうなずいた。
「クーナは巨大なウナギの姿をしているんだそうだ」
「ウナギ? って、にょろにょろした魚よね?」
ニコルがアタシを見上げて小首をかしげた。
「お姫さま、何か気になることがあるの?」
「アタシ、さっき、ヒナを尾行してたの。ヒナは村の外れの洞穴に入っていった。そこでクーナと会ってたのよ」
「会ってたって? デート?」
「ま、まあ、そんなもんだとは思うけど」
デートなんて軽い言葉じゃなくて、もっとキレイで切ない光景だった。
ニコルは重ねてアタシに尋ねた。
「大ウナギと美少女の、デート?」
「違うわ。クーナは大ウナギじゃなかったわよ。青い体をした男だった。ヒナとお似合いの美形だったわ。ヒナは、イケニエじゃなくて嫁になるんだって楽しみにしてた」
ラフが、ふと硬い声で言った。
「シャリン、こっち向け」
「なによ?」
「……なあ、ニコル?」
「うん。おかしいね」
なんなのよ? って訊こうとした、そのとき。
「黒岩の瀬の洞穴にヒナがいるのか?」
いつの間にか、カイがそこにいた。槍を持った腕がわなわなと震えている。
止める間もなかった。カイは黒岩の瀬のほうへと駆け出した。
「うわぁ、修羅場になっちゃうね」
「修羅場って……まあいいわ。とにかく行く。アタシは、カイのほうこそいけ好かないと思うわ」
アタシはカイの後を追って駆け出した。ラフがアタシを呼び止めようとする。
「待てよ、お姫さま! その目の色……ああもう、聞けってば!」
結局、ラフもニコルもアタシの後ろから走ってきた。
「カイは三人の兄貴をクーナにやられてる。漁の禁忌《カプ》の日に海へ出た罰だったみたいだけど」
「自業自得じゃないの」
「でも、カイにしてみりゃ、クーナは兄貴の仇だ。で、一年前、村の力比べで優勝した日、カイはクーナに勝負を挑んだ」
「結果は?」
「引き分け。カイはクーナの土手っ腹に槍を打ち込んだ。でも、とどめを刺す前に海から陸へ放り出されて、戦闘不能。クーナは槍を口にくわえて引っこ抜くと、どこかへ逃げ去った」
ちょっと待って。今、変なこと言わなかった?
「口にくわえて引っこ抜く?」
ラフはうなずいた。
「クーナは巨大なウナギの姿をしているんだそうだ」
「ウナギ? って、にょろにょろした魚よね?」
ニコルがアタシを見上げて小首をかしげた。
「お姫さま、何か気になることがあるの?」
「アタシ、さっき、ヒナを尾行してたの。ヒナは村の外れの洞穴に入っていった。そこでクーナと会ってたのよ」
「会ってたって? デート?」
「ま、まあ、そんなもんだとは思うけど」
デートなんて軽い言葉じゃなくて、もっとキレイで切ない光景だった。
ニコルは重ねてアタシに尋ねた。
「大ウナギと美少女の、デート?」
「違うわ。クーナは大ウナギじゃなかったわよ。青い体をした男だった。ヒナとお似合いの美形だったわ。ヒナは、イケニエじゃなくて嫁になるんだって楽しみにしてた」
ラフが、ふと硬い声で言った。
「シャリン、こっち向け」
「なによ?」
「……なあ、ニコル?」
「うん。おかしいね」
なんなのよ? って訊こうとした、そのとき。
「黒岩の瀬の洞穴にヒナがいるのか?」
いつの間にか、カイがそこにいた。槍を持った腕がわなわなと震えている。
止める間もなかった。カイは黒岩の瀬のほうへと駆け出した。
「うわぁ、修羅場になっちゃうね」
「修羅場って……まあいいわ。とにかく行く。アタシは、カイのほうこそいけ好かないと思うわ」
アタシはカイの後を追って駆け出した。ラフがアタシを呼び止めようとする。
「待てよ、お姫さま! その目の色……ああもう、聞けってば!」
結局、ラフもニコルもアタシの後ろから走ってきた。