「おーい、二人ともー!」
 ニコルが手を振りながら砂浜を駆けてくる。ラフは小さく手を挙げて応えた。
 炎のそばのヒイアカが両腕を満天の星へと差し伸べた。波が引くように、喝采が静まる。次の曲が始まるみたい。
 ニコルがアタシたちのところに合流した。
「お待たせ! ようやくオートカメラの設定ができたよ。手こずっちゃったなあ。昔と操作法が変わってるんだもん。しかも、悪い方向に。ピアズも、メンテ入れたほうがいいツールが地味に多いよね」
「ご苦労ご苦労。そんな様子じゃ、ゆっくり見れなかっただろ?」
「全然。まあ、ちゃんと撮れてることは確認したよ。後のお楽しみだね」
「これから別の演目か? さっきのと雰囲気が違うな」
「さっきのダンスは、神話時代の恋物語をモチーフにしてた。で、今から、このフアフアの村の起源を歌とダンスで表現するらしい。今日の祭のメインになるダンスだって」
 二人の会話に、アタシは口を挟みそこねた。
 ラフの「中の人」はエンジニアかもって思ってたけど、ニコルもずいぶんピアズに詳しそう。少なくとも、アカウント登録から四ヶ月って感じの話し方じゃなかった。
 と。
 ヒイアカの澄んだ声が歌を紡ぎ始めた。

  昔語りを いたしましょう
  神代の名残 人の子は
  土の恵みを まだ知らず
  海の気まぐれ 恐れては
  飢えぬ未来を 祈るのみ
  名もなき村の 乙女ヒナ
  これは彼女の 恋の歌
  恵みと別れの 恋の歌

 ヒイアカのまなざしがハッキリとこっちに向けられた。ミステリアスな目をして、ヒイアカは微笑んだ。

  捜しに行っては くれまいか
  時の流れの その向こう
  夢路をたどりて 預けたる
  下弦の月は 海死神《カナロア》の星

 いきなり。
 ぐらり、と足下が揺れた。
「きゃっ」
「なんだこれ? ワープかよ?」
 エコーのかかったヒイアカの声が告げた。
「皆さま、どうぞお気を付けて行ってらっしゃいませ。時をさかのぼり、悲しき海の戦士のもとへ。彼の持つホクラニは『海死神《カナロア》の星』。ワタシのもとへお戻しくださいますよう、お願いいたします」
 アタシたちは、時空の歪みの中へ放り込まれる。
「あーちょっと待って。食材を入れたバッグが宿なんだけど」
 ニコルの抗議にも、問答無用。祭の夜の風景が遠のいていく。