松明を手にしたクラは、吹っ切れたみたいに淡々と告げた。
「ホクラニを盗んだのは、イオさまだと思われます。イオさまは長の実子。一年前に、ネネの里を出奔してしまわれました」
「その人が戻ってきたんだね?」
「今年は大トカゲ属の繁殖期です。イオさまは、里の様子をうかがいに、こっそ戻られたのでしょう。そして、里で最強の戦士である長が痛手を負ったと知った。だからイオさまは、ホクラニの力を利用してアリィキハを倒すことを決心されたのではないかと思います」
「なるほどねえ」
「イオさまであれば、ホクラニのことをご存じです。番犬も、イオさまにはなついていました。簡単にホクラニを盗むことができたでしょう」
 彫りの深いクラの顔に松明の火が映り込んでる。同じように、ラフの顔にも、ニコルの顔にも。
 少し沈黙が落ちた後、アタシは言った。
「で? 具体的に、アタシたちは何をすればいいの?」
「ホクラニを持っているのが本当にイオさまだとしたら、必ず今宵、望月の明るいうちにアリィキハ討伐を試みるはずです。ワタシはイオさまを止めたい。ホクラニの強い力を人間が扱うのは危険です。皆さま、よろしければ、ワタシと一緒に来ていただけませんか?」
「そりゃー、ここまで来て『いいえ』って選択肢はねえよ。な、シャリンにニコル?」
「そうね」
「うん」
 アタシたちの返事に、クラは深々と頭を垂れた。