ホヌアの中央台地、東部。荒野と草原が交互に現れて、モザイク模様になっている。
 北部の高山から吹き下ろす風は気まぐれだ。乾燥しきっているかと思えば、急に、雨や霧を連れてくる。
「ここが、ネネの里なの?」
「小さな村だね」
 カロイモとサトウキビの畑が広がっている。ブタを飼ってるのが見える。木の実や果物を採っている村人がいた。
 里の代表として挨拶したのは、若い男だった。優しそうっていうか、気弱そうな印象だ。
「このようにひなびた里に、ようこそおいでくださいました。ワタシはクラと申します。長の代理を務めております」
 少年って呼んでもいい見た目で、むき出しの上半身は細く引き締まってる。でも、戦士の体つきじゃない。職業としては「農夫」なんだと思う。こんな村の住人だし。
「さっそくだけど、ヒイアカのホクラニを返してちょうだい。って言っても、クリアしなきゃいけない条件があるんでしょうけど?」
 ステージに登場するキャラクターは、AIだ。プログラムのとおりに動いて、しゃべる。アタシが口を開いて会話を促す必要はなくて、ニコルのユーザがボタンを押せば情報が聞き出せる。
 実際、アタシは今までAIとしゃべったりなんかしなかった。淡々とボタンをクリックして、ストーリーを進めてた。
 でも、今は違う。ラフやニコルとは、声に出して会話しなきゃいけない。自然な流れで、AIにまで話しかけてしまう。
 クラはアタシの言葉に反応して肩を落とした。
「ヒイアカさまがご結婚なさること、そのご婚姻の儀にホクラニが必要となること。そうしたことはすでにうかがっています。ワタシたちネネの民も、ヒイアカさまのご結婚を祝福しております。すぐにでもホクラニと贈り物を持ってフアフアへ参りたいのですが……」
「ですがって、なによ?」
「ないのです。ホクラニがネネの里にないのです」
「ない?」
 クラは地面に膝をついた。すがるような目でアタシたちを見上げる。
「ネネの里にお預かりしていたホクラ、『神々《アクア》の星』は、盗まれてしまったのです。どういたしましょう? 皆さまのお力をお借りすることはできませんか?」
 ニコルは眉尻を下げて、お人好しな笑顔をつくった。
「盗難事件ね。そうきましたか。ここは『はい』しかないよね。ボクたちにお任せくださいよ、と」
 ニコルのユーザが選択に答えたみたい。クラの表情がパッと輝いた。
「なんとお心強い! 皆さま、感謝いたします。立ち話のままというのもなんです。ワタシの家へおいでください。ことのあらましを、もう少し詳しくお話しします」