伊勢名物といえば、いわずと知れた赤福餅。
おかげ横丁に店を構える【赤福 本店】は、創業三百十年以上、明治十年に建て替えられ、今もなお当時の雰囲気をそのままに、重厚で由緒ある建物が参拝者や観光客を迎えている。
お茶を焙じる香りが漂う店内には座敷が広がっており、滑らかなこし餡が乗った赤福餅を味わう客でいっぱいだ。
私とミヅハは運良く五十鈴川に面した縁側席に座ることができ、番号札を手に注文した赤福氷を待っている。
「ミヅハは何餡の赤福餅が好き?」
陽の光を受けてきらめく五十鈴川を眺めながら尋ねると、ミヅハは「全部だな」と答えた。
赤福では、五十鈴川店限定の【野あそび餅】という四色の赤福餅がセットになったものが販売されている。
数に限りがあり、購入の数にも制限があるのだが、定番のこし餡以外に、上品な甘さの白餡、夏場は大豆若葉、冬場はよもぎの緑餡、黒砂糖の濃厚な香りが魅力の黒餡と、ひと箱で四種の味が楽しめるのだ。
「私は断然、定番のこし餡派」
聞かれてはいないけれど答える私に、ミヅハは「知ってるか?」と瞳に五十鈴川を映して問いかける。
「赤福餅は、五十鈴川を現した餅菓子なんだ」
「五十鈴川を?」
「こし餡につけられた三筋は五十鈴川の清流を表現していて、餅は川底に沈んでいる小石をイメージしているらしい」
さすが、天のいわ屋のスイーツ王子。
披露された豆知識に、赤福餅の形を思い出しながらなるほどと感心した。