「別れますか?」

どストレートな言葉だ。

だけど、ちっとも嬉しくなさそうに見える。

「俺が不幸になって、面白いんじゃないんですか?」

自分で言っていて、なんだか悲しくなる。

結崎さんは首を横に振った。

「面白くないです。傷ついてる人を笑う気はありません。幸せな人が不幸になる瞬間が面白いんです」

どちらにせよ、最低だけどな。

「私は、富谷さんに不幸になってほしいんです」

真剣な表情で、他人の不幸を願われても困る。

それに、浮気されたことは許せないけど、彩月に不幸になってほしいとは思わない。

「……俺が別れを告げたら、彩月は傷つきますかね」
「どうでしょう。富谷さんには慰めてくれる人がいるみたいなので、大丈夫なんじゃないですか?」

随分冷たく言うな。
まあ、結崎さんには一切関係のないことだから、全く問題ないけど。

すると、結崎さんのスマホが鳴った。
音の短さからして、メールだろう。

「ちょっとすみません」

結崎さんは軽く言うと、スマホをポケットから取り出した。

メールの確認をすると、目を丸くした。
それからすぐに茶封筒を出して三つ折りにされた紙を読み始めた。

暇になった俺は、コーヒーを喉に通す。

そういえば、結崎さんに聞きたいことの二つ目は、その茶封筒についてだった。

「それ、なんなんですか?」
「ん……バイト、です」

迷った上でそう言った気がする。

でも、バイトということは、もう一つの茶封筒にはお金が入っているということか。

「……ヤバいことに手、出したりしてませんよね?」

すると、結崎さんはふふ、と小さな声を出して笑った。

「一緒に来ますか?どうやら今回は急ぎの仕事のようなので、今から行こうかと」

読み終えたのか、紙をまた三つ折りにし、封筒に戻した。

説明するよりも見た方が早い、ということだろうか。

今日はもう暇になってしまったし、なにより、気になる。

「行きます」

結崎さんがロールケーキを食べ終えるのを待ち、俺たちは電車に乗った。

すぐに着くからと、結崎さんは椅子に座らなかった。
女性が立っているのに、俺が座れるわけなくて、俺も近くに立つ。

話すことがなくてもいいはずなのに、なんとなく、沈黙が耐えられなかった。

「結崎さんはどうして人の不幸を楽しむんですか?」

俺が急にそんなことを聞いたせいで、結崎さんは固まってしまった。