結崎さんは目を見開いた。

「見ていたんですね」

急に悪いことをしたような、罪悪感に襲われ、顔を背けた。

「瀬戸さんの調べ物はどれくらいで終わりますか?」

今日はすぐに話してくれるらしい。
本を借りるつもりではなかったが、きっと結崎さんのことが気になって集中できないだろう。

「本を借りるだけなので、すぐ済みます」
「では、私は本を戻してきますね」

結崎さんが本棚の方に歩いていき、俺はそれと逆方向にあるカウンターに向かった。

貸し出しの手続きを終え、振り向くと出入り口に結崎さんが立っていた。

「お待たせしました」

男から受け取った封筒の中身を確認していた結崎さんは、俺が声をかけると、鞄にそれを戻した。

「あそこの喫茶店で話しましょう」

結崎さんが指定したのは、図書館の目の前にある喫茶店だった。

存在は知っていたけど、入ったことはない。

結崎さんは常連なのか、店員と仲良く雑談を始めた。
少しして俺がいたことを思い出したのか、注文をした。

お金を払って頼んだものを受け取ると、向かい合って座る。

「何からお話しましょう?」

結崎さんはフォークをロールケーキに刺す。
一口サイズを取ると、小さく口を開けて食べた。

生クリームが苦手な俺は、それから目を逸らしながらコーヒーを飲む。

結崎さんに聞きたいことは、大きくわけて二つある。
彩月のことと、さっきの男のこと。

俺的に一番気になるのは、彩月の浮気についてだ。

「どうして、彩月が浮気をしていると言い切ったんですか?」
「富谷さんが瀬戸さん以外の方と腕を組んで歩いているのを見たことがあっただけです」

フォークを置き、両手でカップを持った。
ゆっくりとカップが傾けられる。

結崎さんの仕草に目を奪われている場合ではない。

それだけで浮気だと断言するのは乱暴だと思う。
兄か弟、もしくは従兄弟という可能性だってあるはず。

「そのとき男の人にプレゼントされてたネックレスつけてたので、その方とお付き合いしているのかなあと」

思ってたけど、この前俺の彼女だって言い切ったから、妙だと思ったわけか。

「……あのとき、彩月に進藤との関係を聞いてましたよね?」

結崎さんはわかりやすく目を逸らした。

嘘をつけない人か。
あれだけ人が嫌がることを積極的にやろうとしていたくせに、こういうときには気を使ってくれるのか。

「進藤が浮気相手、か……」

正直、そこまでショックではなかった。
それを知って、彩月が進藤を下の名前で呼んでいたことも、進藤をかばっていたことも納得がいく。

進藤がお金がないと言っていたのは、彩月にプレゼントを買ったりしていたからなのか。

まあ、もうどうでもいいけど。