「……では、またの機会にしましょう」
結崎さんはトランプを鞄にしまうと、立ち上がった。
その途中、二人には気付かれないようにそっと俺の膝の上に名刺を置いた。
「ゲームにお付き合いくださり、ありがとうございました。進藤さんは腕を上げてまた挑戦してください」
結崎さんは俺には何も言わず、帰っていった。
「悠吾くん」
彩月は恐る恐る俺の名前を呼んだ。
ゆっくりと俺に向けて手を伸ばしている。
だけど、俺はそれから逃げるように立ち上がった。
「ごめん、今は一人になりたい」
結崎さんの話を鵜呑みにしたわけではない。
それでも、気にせずにはいられなかった。
俺は進藤と彩月を置いて、食堂を後にした。
◆
数日後、彩月からデートの誘いが来た。
だけど、その日は図書館に行くつもりだったから、断った。
その返事が、まだ怒ってるの?だった。
俺が彩月のことを信じられなかったせいか、彩月の俺への信頼度も落ちているような気がする。
まあ、怒ってはいないが、顔を合わせづらいのは事実だ。
そんなことを思いながら、市立図書館に向かう。
読みたい本を二冊手に取ると、空いている席を探す。
そのとき、ある人を見つけた。
俺はその人に気付かれないように、本棚に隠れる。
あの日から会っていなかったし、連絡もしなかった。
だから、見つかると厄介なことになりそうだと思った。
俺はそっと顔を出し、結崎さんの様子を伺う。
本を読んでいるが、今日は髪を下ろしていて、邪魔なのか、右手で髪を左耳にかける。
その仕草に目を奪われる。
すると、結崎さんの前にスーツ姿の男が座った。
結崎さんは本を閉じ、大きめの茶封筒を彼に渡した。
男は中身を確認すると、小さな茶封筒を二枚、結崎さんに渡す。
そして男は立ち去った。
それからすぐに、結崎さんは本を持って立ち上がった。
顔を上げた結崎さんと目が合う。
しまったと思ったが、もう遅い。
二人のやり取りが気になりすぎて、逃げ遅れた。
「瀬戸さん……?」
「……どうも」
結崎さんに捕まると思ったが、あのときのような目をしない。
「偶然ですね。瀬戸さんはなにか調べ物ですか?」
小声ではあるが、普通の世間話のようなものをされ、少し拍子抜けしてしまう。
「はい。ここは大学の図書館より本が揃ってるので。結崎さんは……あの男の人となにをしていたんですか?」
やめておけばよかったものを、俺はそんな質問を返した。
結崎さんはトランプを鞄にしまうと、立ち上がった。
その途中、二人には気付かれないようにそっと俺の膝の上に名刺を置いた。
「ゲームにお付き合いくださり、ありがとうございました。進藤さんは腕を上げてまた挑戦してください」
結崎さんは俺には何も言わず、帰っていった。
「悠吾くん」
彩月は恐る恐る俺の名前を呼んだ。
ゆっくりと俺に向けて手を伸ばしている。
だけど、俺はそれから逃げるように立ち上がった。
「ごめん、今は一人になりたい」
結崎さんの話を鵜呑みにしたわけではない。
それでも、気にせずにはいられなかった。
俺は進藤と彩月を置いて、食堂を後にした。
◆
数日後、彩月からデートの誘いが来た。
だけど、その日は図書館に行くつもりだったから、断った。
その返事が、まだ怒ってるの?だった。
俺が彩月のことを信じられなかったせいか、彩月の俺への信頼度も落ちているような気がする。
まあ、怒ってはいないが、顔を合わせづらいのは事実だ。
そんなことを思いながら、市立図書館に向かう。
読みたい本を二冊手に取ると、空いている席を探す。
そのとき、ある人を見つけた。
俺はその人に気付かれないように、本棚に隠れる。
あの日から会っていなかったし、連絡もしなかった。
だから、見つかると厄介なことになりそうだと思った。
俺はそっと顔を出し、結崎さんの様子を伺う。
本を読んでいるが、今日は髪を下ろしていて、邪魔なのか、右手で髪を左耳にかける。
その仕草に目を奪われる。
すると、結崎さんの前にスーツ姿の男が座った。
結崎さんは本を閉じ、大きめの茶封筒を彼に渡した。
男は中身を確認すると、小さな茶封筒を二枚、結崎さんに渡す。
そして男は立ち去った。
それからすぐに、結崎さんは本を持って立ち上がった。
顔を上げた結崎さんと目が合う。
しまったと思ったが、もう遅い。
二人のやり取りが気になりすぎて、逃げ遅れた。
「瀬戸さん……?」
「……どうも」
結崎さんに捕まると思ったが、あのときのような目をしない。
「偶然ですね。瀬戸さんはなにか調べ物ですか?」
小声ではあるが、普通の世間話のようなものをされ、少し拍子抜けしてしまう。
「はい。ここは大学の図書館より本が揃ってるので。結崎さんは……あの男の人となにをしていたんですか?」
やめておけばよかったものを、俺はそんな質問を返した。