「……では、またの機会にしましょう」

結崎さんはトランプを鞄にしまうと、立ち上がった。
その途中、二人には気付かれないようにそっと俺の膝の上に名刺を置いた。

「ゲームにお付き合いくださり、ありがとうございました。進藤さんは腕を上げてまた挑戦してください」

結崎さんは俺には何も言わず、帰っていった。

「悠吾くん」

彩月は恐る恐る俺の名前を呼んだ。
ゆっくりと俺に向けて手を伸ばしている。

だけど、俺はそれから逃げるように立ち上がった。

「ごめん、今は一人になりたい」

結崎さんの話を鵜呑みにしたわけではない。
それでも、気にせずにはいられなかった。

俺は進藤と彩月を置いて、食堂を後にした。



数日後、彩月からデートの誘いが来た。
だけど、その日は図書館に行くつもりだったから、断った。

その返事が、まだ怒ってるの?だった。
俺が彩月のことを信じられなかったせいか、彩月の俺への信頼度も落ちているような気がする。

まあ、怒ってはいないが、顔を合わせづらいのは事実だ。

そんなことを思いながら、市立図書館に向かう。

読みたい本を二冊手に取ると、空いている席を探す。

そのとき、ある人を見つけた。
俺はその人に気付かれないように、本棚に隠れる。

あの日から会っていなかったし、連絡もしなかった。
だから、見つかると厄介なことになりそうだと思った。

俺はそっと顔を出し、結崎さんの様子を伺う。

本を読んでいるが、今日は髪を下ろしていて、邪魔なのか、右手で髪を左耳にかける。
その仕草に目を奪われる。

すると、結崎さんの前にスーツ姿の男が座った。

結崎さんは本を閉じ、大きめの茶封筒を彼に渡した。
男は中身を確認すると、小さな茶封筒を二枚、結崎さんに渡す。

そして男は立ち去った。
それからすぐに、結崎さんは本を持って立ち上がった。

顔を上げた結崎さんと目が合う。

しまったと思ったが、もう遅い。
二人のやり取りが気になりすぎて、逃げ遅れた。

「瀬戸さん……?」
「……どうも」

結崎さんに捕まると思ったが、あのときのような目をしない。

「偶然ですね。瀬戸さんはなにか調べ物ですか?」

小声ではあるが、普通の世間話のようなものをされ、少し拍子抜けしてしまう。

「はい。ここは大学の図書館より本が揃ってるので。結崎さんは……あの男の人となにをしていたんですか?」

やめておけばよかったものを、俺はそんな質問を返した。