順調にゲームが進んでいた。
だが、ある程度すると、俺と進藤がパスをする回数が増えだした。

結崎さんが止めているのだ。

結崎さんはゲームを始めたとき以上に、幸せそうに笑っている。

「バカにしてたから、そんなことになるんですよ」

わざとだな。
この状況を楽しむなんて、最低な性格だ。

そして結崎さんの一抜けで七並べは終わった。

「……つまらなかったです」

机の上に並べられたトランプを、わざわざぐしゃぐしゃにして集めながら言った。

いや、あれだけ他人をバカにしておいて、楽しくなかっただなんてよく言えたな。

「進藤さんは真剣にやってくれたので」

トランプを片すと、結崎さんは財布を取りだした。
そこから百円玉を取り出す。

「これくらいの価値はありました」
「……百円……」

なんとも言えない表情で目の前の百円玉を見つめている。
しかし、そんなことはどうでもいい。

結崎さんは俺のほうを睨むように見ている。

「瀬戸さんとは、もっと楽しいゲームができると思います」

つまり、俺とのゲームは一円にもならなかった、と。
まあ構わないけど。

「しませんよ。俺、お金いらないし」

席を立つが、結崎さんが帰らしてくれない。

直接俺を引き止めているわけではない。
ただ、じっと俺の顔を見上げている。

「悠吾くん!」

俺が動けないでいたら、彩月の声がした。
彩月は俺のそばまで走ってきて、腕にしがみついた。

「やっぱり会いたくなっちゃって……用事、終わった?」

彩月の上目遣いに、少し癒される。

「うん、終わったよ」
「じゃあ私と」
「瀬戸さん、そちらは?」

結崎さんが彩月に被せて話した。
彩月は不服そうに頬をふくらませる。

それを可愛いと思っている場合ではない。

「悠吾くんの彼女の、富谷(とみや)彩月。あなたは、悠吾くんのなに?」
「少しゲームをした仲です。結崎幸です」

結崎さんの作り笑顔が怖い。

俺の腕を掴んでいる彩月の力が強まる。
結崎さんの挑発に乗ったか。

だが、彩月は俺を見ている。

「私とのデートなしにして、女の人とゲームしてたの?」
「やらされたんだよ。本当に結崎さんとゲームしたかったのは、進藤」

彩月が進藤を見ると、進藤は照れ笑いを浮かべた。

気持ち悪い笑い方をするなよ。

「女の人とゲームとか緊張するから、付き合ってもらったんだ。ごめんね、彩月ちゃん」
「もう、拓海くん!悠吾くん巻き込まないでよ」