結局俺は負けて、彩月(さつき)に行けなくなったと連絡をした。

進藤に連れられて、食堂に行く。
昼時ということもあって、人が多い。

「なあ、どうやって人探しするんだよ」
「SNS使って、結崎幸って人がどういう顔か調べたから、任せろ」

なぜドヤ顔で話しているのか、わからない。
普通、調べたらいけないと思う。

それで見つかるのもおかしい話だ。

「有名な人なんだな」
「おう。めちゃくちゃ可愛い……というか、美しかった」

それが目的になっているような気がする。

まあ、いいか。
俺には関係ない。

すると、進藤が急に立ち止まった。

「いた……」

進藤の背中越しに、進藤の視線の先にいる人を見る。

その人は窓際の隅にいた。

長い髪を後ろで一つに束ねていて、赤ふちメガネをかけている。
本を読むために目は伏せ気味になっているが、睫毛が長いせいか、眠っているように見える。

進藤は彼女に見惚れたというところか。

「行ってこいよ。美人とゲームして、負けて金が手に入る。こんないい金稼ぎ法はないだろ」

俺は早く彩月のところに行きたくて、進藤の背中を適当に押す。

「いやいや、無理!緊張して言葉出てこねえ!」

進藤は俺の背中に隠れる。

知るかよ。

「じゃあ帰る」

進藤の前から動こうとするが、どうやら服の裾を掴まれたらしい。
帰れない。

「それもやだ」

どうしたいんだよ、お前は。

「なあ、お前が行ってくれよ」

なんで俺がと思ったが、俺が行くことでさっさと終わるなら、それもいいか。

俺はまっすぐ彼女のテーブルの隣まで歩く。

俺が来たことに気付いた彼女が、視線をあげる。
大きな瞳が俺を捕まえる。

「どちら様ですか?」

これはたしかに緊張する。
だが、ここに割く時間はない。

「あなたとゲームをすればお金が貰えるという噂を聞きまして」

彼女は本を閉じ、立ち上がる。
割と身長があったみたいで、目線があまり変わらない。

「本当ですか?最近楽しいゲームができていなくて、退屈していたんです。では、なんのゲームをしますか?オセロ?ポーカー?それとも、チェス?」

本当にゲームが好きなのか、口を挟む隙がない。

彼女の勢いから逃げるように後退りをしていたら、進藤にぶつかった。

そうだ、お前がゲームしたいって言ったんだ。

俺は目で助けろと訴えるが、進藤はまるで気付かない。