警察から解放されたときには、日が沈んでいた。

「いやあ、正当防衛とはいえ、しっかり怒られましたね」

隣にいる結崎さんは笑っている。

包丁を向けられて、殺されそうになったくせに、どうして笑っているんだ。

「まさか、フライパンで殴るとは!犯人があれで気絶するなんて、どれだけ強い力で殴ったんです?」

余程面白かったのか、結崎さんはまだ笑っている。

「いや、それよりも瀬戸さんがお客さんの家を間違えたことが一番でしたね」

それは俺が馬鹿だったというか、結果運が良かったというか。

しかし結崎さんが笑えば笑うほど、俺は怒りが込み上げてくる。

俺は足を止めた。

「……こんなに危険なこと、もうやめてください」

少し前に出てしまった結崎さんは、振り向く。

「嫌です」

真っ直ぐ俺の目を見て言った。
即答だった。

「どうしてですか。今回、俺がいなかったら」
「わかってます。瀬戸さんがいなかったら、私は死んでました」

俺の言葉を遮ってまで言う必要はないと思うが、自覚していたならいい。

だが、わかっていて続けるのは理解できない。

「でも、私たちがいなかったら、あの子が死んでいたんです。命懸けで、助けを求める人を救う。こんな素敵なことはないと思いませんか?」

だったら警察にでもなればいいだろ。
結崎さんが暗躍しなくてもいい。

「まあ、本当は犯人の追い詰められた顔が見たいだけですけど」

小声だったが、はっきりと聞こえた。

それが真の目的だろ、絶対。

「それに……もしまた危険な目にあっても、瀬戸さんが助けてくれるでしょ?」

結崎さんの笑顔にも逆らえる気がしない。

「……だったら、条件が二つあります」

俺は結崎さんの隣に並ぶ。

「一人で勝手に行動しないこと、ゲームで負けてもらうというあれをやめること」
「……どうしてもやめなきゃダメですか?」

結崎さんの上目遣いは想像以上の破壊力だ。

俺は目を逸らし、歩き始める。

「俺が相手になりますから、やめてください」

なんて言っているが、本当はこれ以上結崎さんを好きになる人を増やしたくないだけだ。

「はーい」

結崎さんは甘えた声で返事をし、俺の隣に走ってきた。

彼女と恋愛関係になることはないだろうが、それでも傍で好きな人を守れるなら、この関係も悪くない。