「明日のお昼です」

翠様は文字通り頭を抱えた。
これは俺でも驚く。

「あたしは常日頃色んな情報を持ってるわけじゃないんだよ。そもそも、幸は学生だ。なんで警察はそこまで頼る?」

翠様の言葉に、結崎さんは何も答えない。

いや、結崎さんが翠様の疑問に対する答えを持っているわけがないから、この場合は答えられないと言うほうが正しいか。

「……幸、時間あるか?」

翠様の表情が少し柔らかくなったような気がする。

結崎さんは顔を上げられないでいるせいで、翠様がもう怒っていないことに気付いていない。
硬い動きで首を縦に振った。

翠様は立ち上がると、結崎さんの顔を上げた。

「臨時バイトとして今日一日働け」

それが何を意味しているのか、聞かなくてもわかった。
要は、自分で集めろ、ということだろう。

「はい」

結崎さんの力強い返事に、なぜか安心した。

「悠吾、お前もだ」

結崎さんを挟んで、翠様の獲物を見つけた肉食獣みたいな目が俺を捕まえた。

「はい……?」
「幸のボディガードだろ?一緒に行動して当たり前だ」

誰がそんなことを言った、と言い返してやりたかったが、頷いてしまっていた。

思わずため息が出る。

「で、でも、瀬戸さんはレポート課題があるって……」

どうして急に遠慮する?
今まで俺が逃げようとしたらことごとく嫌がったくせに。

「ここまで来たら付き合いますよ。てか、殺人犯を見つけようとしてるなら、ボディガードになってなくても、心配で残ります」

すると、見とれてしまうほど素敵な笑顔が俺に向けられた。

「ありがとうございます、瀬戸さん」

……確信犯だ。
俺は騙されたんだ。

「よし、仕事を教えるから、二人とも着替えるよ」

翠様が部屋を出ると、結崎さん、俺の順で翠様を追った。

制服を渡され、それぞれ更衣室で着替える。
着慣れない制服で、変に緊張してしまう。

「酒はこっちで作るから、注文聞いたり、片付けたりしてくれればいい。わからないことがあったら、その都度聞くこと」

仕事内容はそう難しくはない。
だけど、俺は酒の種類や名前には詳しくなくて、想像以上に手間取った。

「悠吾は片付けだけでいい」

そう言われたときには、二十分も経っていなかった。

指示された通り、空いたグラスを下げたり、テーブルを拭くことに専念する。
結崎さんは客とコミュニケーションを取りながら、目的を果たそうとしていた。