悪い笑顔に見える。
それに逆らう勇気は持ち合わせていない。

俺は承諾するしかなかった。

「よし、話を戻そう」

翠様から楽しげな笑顔が消えた。
真剣な表情は、人を殺せそうだ。

「女子高生が殺されたのは、たしか、昨日の夜中だったな」

翠様の確認に、結崎さんが頷く。

いつの間にかノートとペンを持っている。
それをまとめて、あの男に渡すということか。

「残念ながら、それについての情報は入ってない。ただ、誘拐されてる場所はわかるかもしれない」
「本当ですか?」

結崎さんは少し前に出た。

この人はあんな性格をしているけど、正義感が強いらしい。

まだ少ししか一緒にいないのに、彼女の意外な一面を見て、もっと知りたいと興味をそそられる。

「いや、確実なものではないから、そこまで期待するな。私たちは刑事でも探偵でもない。根拠のない話から推察することしかできない」

結崎さんは肩を落として元の場所に戻った。

「二日前、ある客が言っていた。隣に一人で住んでいる男の家から、女の声がした、と」

それだけでその男が誘拐しているとするのは、無理がある。

結崎さんもわかっているのか、翠様の次の言葉を待っている。

「女でもできたんじゃないかと言ってやったら、すぐに否定された。女の声は、泣き叫ぶような感じだったらしい」

これでようやく、そこに女子高生が誘拐されているのではないかと考えることができる。

「もっとこう……怪しい行動をしていた、とかは?」
「それを知りたいなら、時間が必要だ。私はその話を、気のせいだと笑い飛ばしたから、これ以上の情報はない」

翠様が嘘を言っているようには見えない。

だが、俺でも知り合いがそんなことを言ってきたら、翠様のように笑い飛ばしただろう。

「どうしてそんなことを……」
「その客は、警察に言ったほうがいいのか、助けてあげられるんじゃないかって、相当怯えていたんだ。ここは私の店で、客が笑って過ごせないのは、私が嫌だ。だから、不安を取り除いただけだ」

結崎さんは何も言い返さなかった。

しかしまあ、同じことをすると言ったが、理由は全く異なるらしい。
俺の場合、関わりたくなくて、気のせいだと言うだろう。

結崎さんの後ろ姿しか見えないが、悔しいという感情がひしひしと伝わってくる。

「今回はいつまでに情報が必要なんだ?」

見兼ねた翠様は、ため息混じりに言った。