「女子高生が誘拐され、殺害された事件についてです。二人のうち一人が殺されたみたいで、まだ一人は救えるかもしれないと、急いでいるようなんです」

言葉が出てこない。
結崎さんは本当に情報を集めているのだと知るには、十分すぎた。

この辺で誘拐事件が発生したことは、地域ニュースでよく取り扱っていたから、記憶に新しい。

でも、流し見をしていたせいで、二人も誘拐されていたこととか、一人殺されてしまったこととか、全く知らなかった。

「誘拐か……」

翠様は呟きながら視線を上げた。
だが、俺と目が合うことはない。

「ほしい情報は、殺人の目撃情報か?それとも、誘拐されている場所か?」
「可能ならば、全部ほしいです」

これ以上は俺が聞いてはいけないような気がして、部屋から出ようと小さく回れ右をした。

「どうした、悠吾」

だけど、すぐに翠様に捕まってしまった。

「いや、俺には関係ないんで、帰ろうかと……」

すると、ただでさえ大きい結崎さんの目が、さらに大きく開いた。

「帰るんですか……?」

どうしてそう、寂しそうに眉尻を下げる。
俺がいなくても何も問題ないだろうに。

「俺はただの学生です。結崎さんのバイト内容が気になってここまで来ましたけど、話を聞いていい立場じゃないです」
「じゃあ、瀬戸さんもバイトしましょう」

名案と言わんばかりに手を合わせているが、なんだか危険そうなことに巻き込まないで欲しい。

俺が困惑していたら、翠様の笑い声が聞こえた。

「幸、相当悠吾のこと、気に入ってるな?」

結崎さんは恥ずかしそうに顔を背けた。

気に入られている自覚はあった。
でも、俺のどこがそんなにいいのかさっぱりわからない。

「クールな瀬戸さんの負け顔を見てみたいと思ったんです」

翠様はますます笑う。

ちっとも嬉しくない。
なんだよ、俺の負け顔って。

まあ、それは結崎さんの性格でもあるから、許したくないけど、許そう。

今問題にすべきことは、俺がここに残るかどうかだ。
それに関しては、俺の不幸になったところが見たいという目的とは関係ないはずだ。

「なんにせよ、あたしは幸と悠吾が組んで行動することに賛成だ」

ひとしきり笑った翠様は、変なことを言った。

「幸は少し無茶をするところがあるからな。悠吾ならいいストッパーになるだろ」

随分適当なことを言ってくれる。

「美人に気に入られたんだ。ボディガードくらいしてやれ」