「私の瞳にはお嬢様しか映りません。ですから、どうかお嬢様はそのままで」
「そのままって……?」
「……。昔からの様に、私だけを頼っていただきたい……」
「変なルカ。私が頼りにしてるのは、ずっとルカだけじゃない」
凪ぐ海のような優しい瞳。私を見守る柔らかな光。
ルカ以外にいない。
ここまで私を思ってそばにいてくれるのは、きっともう……この人しかいない。
それに、こんな身体の私が人並みに生きていられるのは、ルカあってこそ。
そんな彼のそばを、私は離れるなんて出来ない。
「これからもそうでしょ?」
「……そうですね。つい、変なことを口走ってしまいました」
唇の端をほんの少し上げて、ルカが笑みを見せた。
彼の微笑みは私の心を安定させる。本当はジャスミンティーなんか無くたって、ルカが笑ってくれさえすれば、私は安心して昼も夜も過ごせるのに。
ルカは……とても心配性だと思う。
「ねぇ、ルカ」
ランプの明かりがゆらゆら揺れて。
まどろむ時間は、毎夜正確に訪れた。
眠りにつくまで隣にいてくれるルカに私がお願いすることは、
「おやすみのおまじない、して」
子供の頃と変わらない。
怖い夢を見ないように……と、子供をなだめるおまじないは、あの頃は単にプラセボのような役割でしかなかった。
それでも、おまじないが絶対だと信じていた子供にとって、偽の薬は本物以上に本物で。
中身が無くても十分な効能があったのだ。
でも、今は違う。形だけのそれでは満足出来なくて、中身が欲しい。
怖い夢が見たくないからじゃない。おまじないが、“ただのおまじない”だから嫌なのだ。