ジャスミンティーは安定剤の代わり。

一体いつから、そう言って、ルカは私に眠る前のお茶を淹れる様になったんだっけ?


もともと少し眠気を持っていたけれど、お茶を飲むと、それをグッと後押しするみたいに身体の奥から眠気がやってくる。

また目を擦る私を見て、ルカがニッコリと微笑んだ。


「さあ、お嬢様。今日はもうお休みを」


ベッドに病人を寝かせるみたいに慎重に。ルカはそっと私を支えてくれた。

いつの間に身体を動かすのも億劫になるほど眠くて仕方なくなったのか。睡眠を欲してる自分。

それでも、重い瞼だけは、まだ降りてこないで欲しいと思う。

少しでも見たいから。

ルカが、私を優しく見下ろす姿……。


「ルカ」

「お嬢様?」


私の傍らに座ったルカは、覗き込む感じで目を合わせてきた。

いつも長い前髪に隠れがちなアイスブルーの瞳は、この時ばかりはあまり隠されない。

しかも、ベッドサイドの小さなランプの明かりが、その普段見えにくい透き通った青をより美しく煌めかせてくれるのだ。

私は、ルカの綺麗な瞳を見上げるこの瞬間がとても好きだった。

昔はもっと見ていた気がする。昼も夜も。


「きれい……お月様みたい」


月のように蒼白くは無いけれど、彼の瞳は月のように静かで。円《まど》かにやすらぎ。アイスブルーは穏やか。

チェシャネコみたいな三日月とは違う。


「私は月とは違いますよ? 世界を見ているのではなく、お嬢様だけを見ているのですから。それに、欠けもしなければ物語の猫の様にからかって笑いもしません」

「知ってる。真面目ね、ルカは」

「お嬢様は、小さな頃からそんな私をからかうのがお好きなようでした」


クスッと笑うルカは、私の髪を一房取ると、どこかの女性の手に口付けるみたいに唇を寄せる。

眠気に視界がぼやけてるせいか、その姿が本当に誰かに口付けてるかに見え、私の胸はちくりと痛んだ。それは誰かじゃなく自分の髪なのに。


ゆらゆら揺れて沈んでいく意識が、幻想を作り出す。