ただの箱だと思っていたが、よく見れば革張りの立派な装飾箱。ということは、中身も相当な品に違いない。
「お嬢様。聞いていますか? 一歩間違えば大事故だったんですよ?」
「壊れなくて良かった……お父様の大事なものだもの」
「あなたのことです!」
ピシャリと小さな雷がフェリルの頭に落ちた。ルカは小言は多くても、声を荒らげることはほとんどない。
さすがに今回はやりすぎたか……と、フェリルは項垂れた。
「ごめんなさい……。それずっと気になってて……。ルカは絶対に駄目だって言うの分かってたから、それで……」
「そうですね。特にこの箱はよろしくありません。旦那様が一番、誰にも知られたくないと仰っていたものです。鍵のかかる棚にいかにもと仕舞っておくのではなく、本棚に紛れ込ませ隠していたのも、そのお気持ちから。木は森に隠せと言いますしね」
「そんなに? ルカは中身を知っているの?」
フェリルの足の様子を何度も確認するルカの手が、質問に止まる。「はい」と彼は答え、箱を大事そうに抱えた。
輝きを失った金色の金具をカチャカチャといじり、それが鍵であることを無言でフェリルに教える。鍵は自分が持っている――ルカの目はそう言った。
「仮面です」
「仮面? ピエロとかの?」
「いいえ」
――陽が傾いてきた。屋敷のどこよりも早く夜がくる書斎。ルカはランプに火を灯す。
「呪いの仮面ですよ」
青い目が火を捉え、オレンジ色に一瞬染まった。