「よし」
ステッキを床につく。片手で車椅子を掴み、ゆっくりと、バランスを崩さないように。慎重に立ち上がる。
チャンスを逃さないために、コッソリ練習をしてきた。その場で立つだけ、短い時間なら大丈夫。
――足を気にしながら、フェリルは腕を伸ばした。だけど、箱まで数センチ……届かない。
いや、ここまできて諦めるわけには……。ステッキに体を預けて、腕に力をこめる。危うい体勢と分かっていても、後戻り出来なかった。
すると、必死のフェリルを気の毒に思ったのか、指先に触れた箱がそーっと頭を出してくれて。
「届いた!」
手に箱の重みを感じた瞬間の達成感。しかし、それが同時にフェリルの感覚を鈍らせる。
かくん、とずれる義足の関節。絶妙に保たれていたバランスが一気に崩れた。
「わっ……!」
このまま倒れれば、自分も義足も壊れるだろう――フェリルは目を瞑って覚悟しつつ……でも頭のすみで箱の行方も気にする。
次に来るのは衝撃か。頭を打ったら痛いだろうな。箱、壊れなきゃいいんだけど。
「箱なんかより自分の体を心配してください」
「ルカ⁉」
低音の声と吐息。腰に絡みつく腕。――彼の香り。
一瞬で体中を巡る甘美なものは、怪我の衝撃よりも強い。