「ルカがいると、自由に見られないのよ。その棚はダメ、この引き出しはダメ。ダメダメばっかり! 本のタイトルだってろくに見せてもらえないんだから」
「それが先代のご指示なのでしょう」
「修復の極意とか書いてある本や、お父様のノートが見つかるかもしれない。お父様は研究熱心だったから、絶対お手本になることが書いてあると思うの」
「……やはりルカに頼むのが一番だと思います。お嬢様が、ちょっと潤んだ瞳で頬を染めながらお願いすれば、彼も折れるかもしれません」
「潤んだ瞳……って」
「お嬢様ももう立派な大人の女性です。悩ましげな表情や、小悪魔的な微笑みといった女の武器を使いましょう」
「……」
無表情で言われても、あまり説得力がない――。
でも、アリアはそれで十分だった。彼女の美しい見た目は、フェリルの幼い時からほとんど変わらない。
白い肌に紅い唇、ペリドットみたいなグリーンアイと、腰まであるストレートの銀色の髪。当然スタイルも抜群。ルカより年上らしいけど、実際の歳を聞いたことはなかった。そんなのどうでもいいと思うほど、アリアは美人だった。
「ルカに効くわけないでしょ」
毎回、“恋する乙女のお願い”をアピールしても、あっさりスルーされてしまうのだから。
「そうでしょうか……?」
アリアは首を右に傾げる。そうなのよ、とフェリルが項垂れると、今度は左に傾げた。
「ねぇ、アリア。怒られるのは私が全部引き受けるから。ね? アリアは知らん顔しててくれればいいの」
キーボックスの金具が壊れていたのに気付かなかった――というのはどうかしら?
フェリルの子供っぽい提案に、アリアは珍しく頬を緩めた。
「その顔をすればいいのですよ、お嬢様」