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ルカが出かけた後、フェリルは工房ではなく父の書斎に向かった。

その前に、キッチンで片付けをしているアリアのところへ。理由は――


「アリア。お父様の書斎のスペアキーを貸してほしいの」

「お嬢様」


振り返ったアリアの顔は“無”だった。


「無理です」


無表情は彼女のデフォルトだ。口調も抑揚なく、口数も少ない。


「そんなことをしては、お嬢様も私も、ルカに叱られます」

「ちょっと本を借りたいだけだから。すぐ終わるわ。ね? ちょっとだけ」

「書斎は立入禁止。私はそうルカに言われています。叱られるのは怖いです。“ちょっとだけ”ならば、ルカが戻った後でも問題ないような気もしますが」

「……うっ……」


書斎に許可なく入っていけないのは、父が生きている時からだった。覗くだけでも叱られる。世界中から集めた珍しい材料、貴重な資料が沢山あるからだと教えられた。

ルカはそれらの管理をずっと任されている。

もちろん、マスターキーはルカが所持していて、フェリルが、お願いしてお願いしてお願いして……やっと部屋に入れる状態だった。