「お嬢様、Mr.ウェンズから修理の依頼が入っております。いかがなさいますか」


朝食後のお茶を淹れながらルカが言うと、フェリルは首をちょこんと傾げた。


「ミスター、ウェンディ?」

「違います」


はぁ……と、ため息をつき、ルカは「No.633です」と返す。

フェリルは視線を斜め左に向け、しばらく考えたあと「ああ!」と笑った。


「あのドレス店のブロンド乙女ね!」

「そろそろ、ドールのナンバーではなく、オーナーの名前で覚えては……」

「ルカが覚えているし大丈夫」

「まぁ、そうですが……それを言われると元も子もないというか……。先代も先々代もキチンと把握されていましたよ?」

「ルカは、お祖父様が生きていた時はこの屋敷にいなかったじゃない。なんで分かるの? それに、お父様もよく依頼主を間違えていたわ」

「……」


もう一度深くため息をついたルカが、両手を軽く上げ小さく笑った。


「分かりました。私の負けです」

「ふふっ」

「ですが、お嬢様。先々代が、依頼主とドールのことを全て把握されていたのは事実です。先々代に一日も早く追いつきたいのであれば、その辺りもお勉強なさった方がよろしいかと」

「……」


抑揚がないルカの口調は説教じみていて、妙な迫力もあり少し怖い。負けたと言ったくせに全然負けを認めていないじゃないのよ。

フェリルは頬を膨らませ紅茶を飲んだ。