透明度の高い肌質、宝石の瞳、今にも喋りだしそうなリアルな表情。滑らかに、しなやかに動く球体関節。
アッシュベリー工房の高級ドールは、噂では家一軒建つと言われるほど高価で、希少価値も高い。
一年に数体造られるかどうか……そもそも、受注も人形師の気分次第。依頼すれば素晴らしいドールが手に入るわけではないのだ。
いつしか、金持ちの間では、アッシュベリーのドールを迎えることが富豪の証と言われるようになった。ゆえに、彼らはこぞって人形師を訪れ、願う。
……が、森の深くに隠れるように建つ屋敷まで足を運んでも、人形師に会えるのはほんのひと握りの人間。もちろん、面会が叶っても願いを受け入れてもらえるとは限らない。
――ドールの瞳は、金を積めば開くものではない。
――ドールの唇は、純粋な想いによって開かれる。
これは、先々代……フェリルの祖父の言葉だ。
アッシュベリー家は、代々続く人形工房。
人形といっても、ただの人形ではない、等身大ビスクドール。
このドールを創造するには、大変特殊な技術と能力を必要とする。
たとえ後継者であったとしても、才能に恵まれた者とそうでない者の差は激しい。創造主になれるか、修理師で終わるか。一族の英才教育を受けても、持って生まれた才能が、最後はものをいう。
フェリルの祖父は、一族の中で最も優れた才能を持つ人形師だった。生み出したドールの数も歴代最高。
逆に父は創造の才に恵まれず、また、修理工としてもあまり腕が伸びず。苦悩の中で家を守り続けた人だった。
そして、フェリル。フェリル・アッシュベリー。
幼くして父を失い、アッシュベリー家当主になった彼女は、祖父をも超える才能を持っている。本人はまだ自覚もなにも感じていないが――。