「あ……」


 その背中を追っていたら、ほんの少し、胸が締め付けられた。

 驚くほどポーカーフェイス、というか、どこか作り物めいた雰囲気を纏わせるお鈴さんに、思わず目を惹かれてしまうのは──きっと、うつしよにいた頃の自分と重なるから。

 この体質は、周囲の人を傷つけてしまう。幼い頃から妖に付き纏われることが多く、けれど自分以外の誰も見えていない彼らは、ただただ畏怖の対象だった。

 奇怪な目を向けられることも、気味悪がれて罵られることも、変わった子として距離を置かれることも、確かに辛くなかったと言えば嘘になる。

 しかしそれ以上に私が恐れていたのは、自分と関係のない人を巻き込んでしまうことだった。彼らはこちらの弱みに付け込んでくる習性がある。つまり、私と親しい仲にある人は、それほど狙われやすい。

 だから私は、自ら人と関わることをしなかった。友達も恋人も作らず、学校ではあくまで義務的な会話しかしなかった。叔父さんと叔母さんには、最後の最後まで視えるということを言わなかったし、そうと悟られるような言動は極力慎むように心がけていた。

 けれども、そうしてどんなに気を付けていてもなお、手を出してくる輩はいたのだ。

 妖は執着心が強い。一度こちらが『視える人間』だと思えば、どこまでもどこまでも付き纏ってくる。ただ興味本位で近づいてくるモノ、力を求めて喰おうとしてくるモノ、人間の遊び相手を求めているモノ──その理由はさまざまだったけれど。

 ただ、私にとっては、理由など二の次だ。なかには友達と言えるくらいまで仲良くなった妖もいたし、温厚な子供妖怪やコハクのような存在を敵とみなすことはないが、それでも『賀茂真澄』という存在に興味を示した妖には警戒を示した。

 万が一、彼らが狙ってきた時のために、こっそりと学校にも家にも結界を張っていたくらいである。意識的に壁を作っていたあの頃、恐らく私の表情筋は絶望的なほど死んでいたに違いない。

 ……まあ、そんな日々に疲れ果てて、逃げてしまったのだけど。