「琥珀は死ぬのが怖くないのですか?」
「怖いですが、今はあなたが拙者の近くからいなくなることの方が怖い」
「ふふ……」
穏やかに笑った唄姫は、スっと息を吸って目を閉じた。
城は既に包囲されている。この場所に敵が乗り込んで来るのも時間の問題だ。
唄姫は敵に捕まったとしても、もしかしたら人質になるだけで済むかもしれない。
対して、琥珀は捕まれば終わり。いや、捕まえられる間もなく殺されるだろう。
なのに、少しも逃げようという気にはなれなかった。
「来たようですね」
唄姫は静かに目を開いた。
それと同時に、部屋の中へ、武装した幾人もの男が乗り込んで来た。
あっという間に琥珀と唄姫は囲まれ、数多の槍先が向けられる。
唄姫の護衛に当たるのは琥珀だけではない。部屋の外にも何人もの手練がいたはずだ。
だがやはりと言うべきか、彼らも敵を食い止めるには至らなかったらしい。
(数は多いな)
琥珀は自分の懐の武器をそっと確認する。
何が何でも、唄姫を守らなければならない。
突如、琥珀たちを囲んでいた男たちが道を空けた。
その空いた道を他とは比べ物にならないほど立派な甲冑を身にまとった男がゆっくりと歩いてきた。
その男は、唄姫の姿を確認すると、嫌らしい笑みを浮かべた。
「久しいではないか、唄姫。相も変わらず美しいな」