毎日毎晩、というわけではなかったが、私は夏生とメッセージのやり取りを続けた。学校では恥ずかしくて、堂々と話せなかったから。
 それに趣味の話をこっそり家に帰ってからスマホでやり取りする方が、親密な関係のように感じられたのだ。

 それほどまでに奥手な女子だったので、初めてのデートが夏になってしまったのも、うなずける。

《花火大会行ってみない?》

「行こう」でも「行ってくれたら嬉しいな」でもなく、私が選んだのは「行ってみない?」。誘っている事実に違いはないのに、下らない自己防衛の心、というかプライドが働いた。
 その日ばかりは既読が付くまでの時間が長く感じられた。いや、いつもと変わらないタイミングだったはずなのだけれど。
 既読が付いてからも、返事が来るまではスマホの画面を開かないよう注意深く机の上に伏せて、部屋の中を意味もなく文字通り右往左往。まるでコメディだ。自分ではわかっていたのだが、どうしても体がじっと落ち着かない。
 返事が来た頃にはもうかれこれ半日以上も返事を待っているような気分になっていて、

《いいよ、行こー》

 そんな飾り気のない返信にさえもすっかり有頂天になってしまったのだった。

 好きな人と二人で、花火大会へ行く。

 それはまさしく“青春”の代名詞のような体験だ。

 そんな予定が自分の手帳の中に刻み込まれるだけで、高校生という生き物は、あたかも自分がこれまでよりも偉くなったかのように思い込んでしまう。
 ちょっとだけ、カーストの階段を上に上がった感じ、とでも言えばいいのだろうか。
「リア充」への接近は、多感な年頃の複雑な人間関係を切り開いてくれる、特別なカードのように働くのだった。