高校生の男女が親密になるのに、大きなきっかけなど不要だった。
 4月末の英語のスピーキングの授業でペアを組んだことで、私たちは「同級生」から「友達」へとランクアップした。(少なくとも私はランクアップしたと思った。)
 そのスピーキングの内容を練るときに、互いの好きな歌手が一致していたことで、ぐっと距離が縮まった。
 中高生にとって、「好きなモノが一致する」というのは、「友情」の許可証が即日発行されることを意味する。たとえそれまでどれほど疎遠でも険悪でも問題はない。しかしどれほど人柄が良かろうと運動や勉学ができようと、「好きなモノ」に共感できない場合、「友情」はなかなか発行されない。不思議なものだ。

 その週のうちに私は夏生のSNSのIDを聞き出すことに成功した。CDの貸借りをしようと約束したことは、非常に効果的だったのだ。

 初めてのメッセージで、私は自分の部屋にあるCDコレクションを写真に撮って送信した。

《これだけそろってます!笑》

 精一杯の自己主張。どぎまぎしてしまった。スマートフォンが熱を帯びていた。私の体温は、この小さな電子機器にはすぐに伝わってしまうのだ。ものの数秒で、同じように写真付きのメッセージが返ってきた。滑る指でロックを開くのは、普段と違ってちょっともどかしい。
 添えられていたのは、バンド名とツアー名の書かれたオフィシャルグッズのタオルだった。

《俺の宝物!》

 ものを大切にする人だ、と思った。
 タオルは新品のまま、それもビニール袋に入ったまま、おそらくは彼の寝室だろう壁に飾られていた。タオルに穴が空かないように、ビニール袋に画鋲が刺さっているのが見える。白い蛍光灯の下、ビニール袋が作り出す影は、太陽光が作り出す影よりもキンキンと冷たかった。こんな風に丁寧にバンドグッズを置いておける人は、きっと周りの人間関係も大切にする人だ。そう直感した。