友人たちの反対を押し切り、その日の放課後、一旦帰宅することもなく制服のまま、私は街にある喫茶店に足を踏み入れてやろうと決意しました。
 クラスメイトの言うとおり、不良達に混じって阿方瑛子もそこにいるような気がしていたのです。

 F女子学院周辺のエリアはいわゆる文教地区でした。つまり他にも高校や大学などの教育機関がひしめいていて、自ずと駅の周辺にも学生が好んで立ち寄るような店が乱立する学生街が成立しています。

 めったに学校帰りに寄り道などしなかったので少々心許ない気持ちもありましたが、思い切って喫茶店の扉を自らの手でついに開けてしまいました。

「いらっしゃい」
 迎え入れてくれたのはぶっきらぼうなマスターと、煙草の煙の充満した、息苦しくなる空気でした。思わず咳き込みました。父は煙草を好まない人間だったので、煙草の臭いに不慣れだったのです。

 喫「茶」店だというのに、コーヒーや紅茶の匂いよりも煙の臭いが勝っているだなんて……私は言葉を失いました。

 さらに入り口近くに座っていた、どことなく反体制的な学生風の数人の男性に、正直ひるみそうにもなります。どこかの学生団体の一員だったかと思われますが、当時の私には彼らが何者かよくわかりませんでした。