周囲が私に言い聞かせる、阿方瑛子=不良説はどことなく納得いくところもありました。
 日頃から彼女は他の生徒とは違って制服を着崩したり、それを指摘する教師を無視したり、私たちのおしゃべりの輪の中にも入ってこない愛想の悪い子だったのです。
 面と向かって教師に反抗的な言葉を投げかけているのを見たことがある者もいたようです。
 高校一年の秋ですから、それなりに深い付き合いのある同級生ができていてもおかしくはないのに、彼女が誰かと笑いあったり親しく話したりしているところを、見たことがありません。
 何より座席がすぐ後ろの私自身、阿方瑛子に話しかけても「うん」とか「そう」とかしか返事されたことがなく、徐々に関わりをなくしてしまったことは事実です。

 その負い目も心のどこかにはありました。
 もっときちんとお話しをして、一緒にお弁当を食べたり、彼女をうちの家に招いたり、そういう努力を重ねて阿方瑛子の心を開かせて、その心を学院に繋ぎ止めていれば、今回のように彼女が姿をくらますこともなかったかもしれない。
 きっと阿方瑛子は友達がいなくて寂しかったに違いない。だから学校へ来るのをやめてしまったんだわ。

 そう考えたからこそ、席の近い者としての責任を果たそうと思い立ったのでした。