それは高校一年の秋のことでした。

 クラスの出席番号一番の阿方瑛子という生徒が前触れもなくある日姿をくらましてしまったのです。学校に姿を見せないばかりではなく、どうやら阿方瑛子は一週間ほど前に家庭で揉めてに家出してしまったようでした。

 出席番号一番の阿方瑛子は、教室でちょうど私のすぐ前の席の子でした。私の旧姓は井嶋で、出席番号が二番だったためです。

 そんなわけで、嫌でも阿方瑛子のいない、ぽっかりと空いた椅子を毎日長時間見つめることになります。どうにも気が落ち着きません。今ひとつ授業にも身が入りません。

「私、阿方さんを探しに行きます」

 その申し出は周囲から大反対を食らいました。

「阿方さんって不良っぽいじゃない。学校に来ないのは、きっとろくな理由じゃないわ」

「なにか危ないことに巻き込まれるかもわからないわよ」

「皐月さんが危険に晒されるのは、絶対にいけないわ」

「前から思っていたんだけど、阿方さんってうちの学院にふさわしくない雰囲気だものね。お父様も法に触れるお仕事だって噂、聞いたことあるの。喫茶店とかに入り浸ってたりするかもしれないわ」

 喫茶店と聞くと、今ではおしゃれで癒やしを与える安全な空間という印象があるでしょう。禁煙の喫茶店もずいぶん増えました。

 でも当時、喫茶店にいる客というものはタバコを吸いながらおしゃべりをして無為に時間を潰す――いわば不良ばかりで、行ってはいけませんと良家の子女達は教えられていました。