【二条皐月(にじょう・さつき】

「ねーねー。おばあちゃんはどうしてまいにちおいなりさんにおまいりするの?」
 今年、幼稚園の年長になった孫娘に問われて、私は柄杓を取った手を止めました。ちょうど私の脇の下から、孫娘の無邪気な両目が、きらきらと夏の朝日を反射させていて、どうにもこの子に嘘はつけそうにもないわね、と観念しました。一体誰に似たのか、孫娘はまだ五歳と数ヶ月ではありますが、たびたび大人の心の奥底を見通したかのような発言をする聡い子だったためです。
「狐さまはね、この町にとってもおばあちゃんにとっても、とても大切な神様だからよ」
「ふーん……おばあちゃんは、きつねさんにありがとうっていいたいんだね!」
 おや、やはり聡い子だわ。
 私はにっこりと孫娘に向かって目を細めてみせました。大正解よ、の意を込めて。