品川夏生。
「シナ」と「ナツキ」が私と重なり合う存在。
 名前と趣味という共通点から、運命の人だと思い込むようになっていたのかもしれない。
 それだけではなく、たった数秒の印象から、「素敵な同級生」という虚像を見出し、追いかけ、本当の姿を置き去りにしていたのかもしれない。もう今の私は、彼の実像を思い出すことなんてできないのだ。

「じゃあ、偽物の僕はそろそろ失礼するよ。きみの中のイメージが崩れてしまった以上、ここにはいられないからね」
「そうなの?」
 首を傾げた。心なしか、彼の肌が満月と同じ色に染まりつつあるような気がした。
「これからは、相手のありのままの姿をちゃんと見ることだね」

 その言葉と同時に、パチン、と全ての蛍光灯が消えた。
 たちまち私は光一つない暗闇に取り残される。

 私の思い出も闇に溶け、次第に輪郭をなくし、解ける。
 偽りの像は、もう必要じゃない。

 闇の向こうの方で、夏生の虚像が立ち去る気配がする。ふと窓を見ると、どういうわけだか、狐の後ろ姿が映っているような気がした。



(第2話 完)