そう思った途端、辺りの光景がめまぐるしく変化し始めた。
 廊下側の窓から朝日が登り、室内を橙色に染め上げる。まるで2倍速の映像を見ているかのようだ。
 夏生の頬の色も同じ色に染まり、はにかむ。

〈僕もずっと言おうと思ってたんだ。山科のことが、好きです〉

 そしてそっと私の手を握る。窓の外を見ると、サッカー部の練習風景が見える。彼らに向かって夏生が手を振る。彼らが祝福の指笛を吹く。私は照れる。
 二人で教室を出る。
〈水族館へ行こうか〉
 制服姿のまま私たちはイルカのショーを見る。いや、二人ともイルカなんて見ていない。互いの顔を見つめ、照れ笑いを浮かべる。二人の声が重なる。
〈大好き〉

 幸福に満ちた映像は突如、次のチャプターへと進む。

 葬儀場。真っ白な棺桶。遺影の中の、はにかんだ夏生。喪服姿の自分。謝罪するバス会社の役員。でもいくら陳謝したところでよみがえらない夏生の魂。
〈行かないで〉
 霊柩車のクラクションが惨たらしく響く。