「どうしてあの頃、あれほど臆病だったのかって、ずっと考えてたんだ。たぶん、青臭いプライドの塊だったんだと思う。もしも山科にそのつもりがないとしたらって、ずっと迷ってた。僕、見た目通りビビリだから――フラれるのが、怖かった」

 鼓膜が震えるとともに、鼻の辺りまで、熱いものがこみ上げてくる。それが涙だと、次第にわかった。

 青臭いプライド――陳腐な言葉だ。
 だけれども私はそれを笑い飛ばせない。
 私たちは同じ過ちを犯したのだから。

「好きだったの。一目見たときから」

 涙が零れる寸前、自分の口から飛び出したのは、あまりにも素朴で、安直で、今さら言っても仕方のない切なすぎる言葉。
 私はいったい誰に向かって愛を告白したのだろう?
 夏生のいた影? 夏生の幽霊? それとも、夏生の姿をした何者か?
 もう夏生はこの世にはいない。
 ちゃんと頭ではわかっているというのに、愛を叫ばざるをえない。
 それは、私の心の奥底で何年間も、夏生への愛が燻っていたから。
 燃え上がらず、かといって消えきらない火よ。もうそろそろ決着をつけてくれ。