たとえ恋人同士になれていない現実がそのままであろうとも、私はこのやるせない感情に折り合いをきっちりつけることができていたかもしれない。
 未練なく新生活を享受できていたかもしれない。

 もしも彼が生きてさえいてくれれば、諦めがついたかもしれないのに。

 こんな風に無益な「もしも」を重ねてしまうのは、私が年を取った証拠だろうか? それとも、現実を直視できない幼さがまだ残っているからだろうか?

 思わず、口にしてしまう。

"What did you do last Sunday?"

 英語の授業のたびに、ふたり、ナツキ同士向き合って何度も繰り返したフレーズ。

 その問いにどう答えればいいのだろう。
 夏生のいない幾多の日曜日を、いったい何をして過ごしてきたというのだろう?

……Nothing.

 心の中で答える。
 すべての日曜日は、虚無という名の暗闇の中に埋もれ、それがあったことさえ思い出せない時間。

 開け放した窓からぴゅう、と冷たい夜風が吹き込んできて、慌てて硝子窓を閉める。もうすっかり夜の入り口に片足を突っ込んでいた。太陽は地平線に消えたばかりで、残光だけが視界の頼りといった明るさだった。満月がさっきよりもずっとずっと明るさを増していて、自分がここで黄昏れていた時間の長さを思い知らされる。

(そろそろ帰ろう)

 鎖を巻き付けられていたかのようにそこを離れられずにいたけれど、もうそろそろ感傷に浸るのも終わりにしなきゃな、と窓に鍵を掛けたその時だった。



「答えは相変わらず、"Nothing"じゃないよね?」