「こんにちは! 明けましておめでとうございます!!」

 引き戸を開けてカウンターの向こうに元気よく挨拶すると、「明けましておめでとう」と返事が返ってきた。

 ついでに「アケマシテオメデトウ」とも。

 私はその光景に暫し目を瞬かせる。
 そこには、まるでそこにいるのが当然かのような様子でフィリップがいたのだ! 本を読んでいる真斗さんの肩でちゃっかりと羽を休めている。

「な、なんで? なんでフィリップがいるの!?」

 驚きのあまり、礼儀作法も忘れて指を差してしまった。つい二週間前くらいに、勝さんと一緒に家に帰ったはずなのに!

「オレ、モドッテキタ」
「ええ!?」

 状況が上手く呑み込めない。

「だからあの涙、無駄になると思うって言っただろ?」

 本にしおりを挟んで顔を上げた真斗さんは、こちらを見てにやりと笑った。

「どういうことですか?」
「ああ、それは──」

 真斗さんはくすくすと笑いながら、呆気にとられる私に説明を始める。

 勝さんは高齢になって体が不自由になった父親から弁当屋『かすや』を引き継いで今年で四年目になるが、あの腕時計を質入れしたことを父親には伝えていないらしい。
 そのため、年末年始に父親が老人ホームから一時帰宅する際はいつも一旦質から出して見せているそうだ。そして、それが終わるとまたつくも質店に質入れにやって来るという。
 今年もおそらくそのパターンだろうなと真斗さんは予想していたらしい。

「じゃあ、お父様に万が一があったら、腕時計を売ってしまうんでしょうか?」

 私は眉を寄せた。
 そんな理由なら、年末年始のお父さんの一時帰宅がなければフィリップはいらないってこと?

「マサルハオレ、ウラナイゾ」

 フィリップはすかさず否定する。

「そうだな。俺も売らないと思う。勝さんは父親がどんだけあの腕時計を大事にしていたか知っているし、前に『腕時計を質入れしたのは、頑張ろうと背水の陣をはったから』って言ってたし」
「どういうことですか?」
「つまり、きちんとコンスタントに稼がないとあの時計がなくなるっていう状況に自らを追い込んで、自分を叱咤してるんだろ。もう本当は質入なんてしなくていい状態だと思うんだけど、油断するとあのときみたいになるぞっていう戒めみたいなもんかな。最盛期と同じ規模に盛り返したら、そのときは胸を張っていつもあの腕時計を身に付けたいって言ってたから」
「なるほど」