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 その日、私は一人で店番をしていた。いつもなら真斗さんがいてくれるけれど、今日は大学院の研究が忙しいとか。

 まだお手伝いを始めて三回目だけれど、つくも質店のお仕事はネットがメインのようで直接お店を訪れる方は少ないようだということはわかった。
 とは言え、直接店舗を訪れる人もたまにいるので、誰かしらの店番を置いておきたいというのが本音のようだ。

「ねえ、フィリップは何に宿る神様なの?」
「トケイ。オレ、スゴクカッコイイトケイダゾ」
「いつからここにいるの?」
「サンネンクライ」
「三年間、質入れされてるの?」
「ソウダ。マサルハイマガンバッテル」
「マサル?」
「オレノモチヌシ」
「ふうん?」
「モウスグクルゾ」

 一人ぼっちの店番だけど、シロもいるしお喋り好きな緑色のインコ──フィリップがずっとお喋りしているので時間はあっという間に経つ。 

 パソコンモニターを覗いてネットで注文があった商品の配送先を確認すると、長野からだった。東京都文京区本郷にあるつくも質店だけれど、お客様は日本全国のようだ。

 宅配便の伝票に丁寧に宛先を転記していると、ガランっと引き戸を開ける音がして私は顔を上げた。

「あ、おかえりなさい」
「ただいま」

 一言だけ返した真斗さんは、カウンターを越してこちらに来るとドサリと鞄を床に置いた。壁の掛け時計を見ると、まだ六時だ。

「早かったですね」
「残りは家でも纏められる内容だから、帰ってからやろうと思って。誰も来なかった?」
「はい。いらっしゃいませんでした」
「ん、よかった」

 よく見ると、走ったせいか髪の毛が少し乱れていた。多分私にひとりぼっちで店番させるのが心配だから、急いで帰ってきてくれたのかな。いつもぶっきらぼうな態度だけれど、裏では色々と気遣いをしてくれて優しい人なのかもしれない。

 真斗さんは無縁坂を登りきった場所にある日本の最高学府、東京大学の大学院に通っており、現在修士課程の一年生だと言っていた。
 修士課程は二年間しかない。一年生とはいえ、学会発表や修士論文の準備はとても忙しそうだ。今まで店番を手伝ってきた真斗さんが学業に忙しく時間を作るのが難しくなってきたことも、私が雇われることの一因のようだ。

 ちなみに専攻は都市デザイン工学という、私には聞き慣れないもの。研究テーマの内容を聞くと、環境負荷の少ないエネルギー供給をデザインするとかなんとか言っていたけれど、全くわからないから理解するのは諦めた。