インコは鳥なのに舌の形が人間に近く、言葉の真似ができることは知っている。けど、あんなに会話みたいなことができるものなのだろうか。インコを飼ったことがないので絶対にないとは言い切れないけれど、まるで言葉がわかっているかのような反応に驚いて言葉もでない。
真斗さんは頭を指で掻くと、こちらを見る。
「あと、一番大事な仕事をひとつ。時々こいつの話し相手、しといてくれる?」
「こいつ?」
「うん」
真斗さんは肩に乗ったインコを指さす。
「……は?」
「イチバンダイジナシゴトダヨ。リカ、ヨロシクナ」
首を傾げたインコがこちらを見る。
「え? え? ええー!!」
静かな店内に、私の絶叫が響き渡った。
喋った。喋ったよ。インコが喋った!
いや、インコは喋る鳥だって私も知っているんだけどね。でも、知っている言葉を繰り返すだけじゃないの!?
唖然とする私をよそに、真斗さんは落ち着いた様子でインコの背を指先で撫でる。
「こいつ、付喪神だよ。遠野さんのその白い猫と一緒」
「つくもがみ? 前もそんなこと言っていましたけど、それってなんですか?」
「あんた、その子が見えているのにそんなのも知らないっておかしくない?」
真斗さんは私の足下にいたシロを顎でさす。呆れたような口調にぐっと言葉が詰まるけれど、『つくもがみ』なんて知らないものは知らない。
「前にも少し話したけれど、付喪神は物に宿った神様だよ。長い期間、人が情を込めて大切にした物には、魂が宿る。それが付喪神ね」
「物に魂が? 長い期間……」
「そう。ついでに言うと、普通の人には見えない。見える人はそっち系の力が強い人だね」
「…………」
ちょっと色々と想像の斜め上を行き過ぎている。
けれど、今、現に目の前にいるインコはオウム返しじゃなく言葉を発することができるのは確かだ。
それに、シロはいつも私の周りにいたけれど、誰もその存在に気が付く人はいなかったことはこの数年間で知っている。だからこそ、前回ここに来た際に店長がシロを抱き上げたことに心底驚いたのだ。でも──。
「この子、万年筆を貰ったときにはいなかったんです。でも、途中からふらりと現れて。私、そんなに長い期間使っていないですけど……」
私はシロを抱き上げて、真斗さんを見上げる。
「あんたはそれだけその万年筆に思い入れがあって大事にしていたんだろ? 立派な付喪神が宿るっていうのは、それだけ大事にしてきて思い入れがあるってこと。うちは不用品は買い取るけど、その人にとって必要なものは買い取らない」
真斗さんは座卓の上のお盆に伏せて置いてあったグラスを一つ取ると、それに麦茶を注ぐ。琥珀色の液体が透明のグラスの中に満たされてゆく。
なんだ。やっぱりこの人、何もかもお見通しだったんだ。
段々と嵩を増す麦茶を眺めながら、ふとした疑問が湧いた。
「……もしかして、あの万年筆は五万円も価値がなかったんですか?」
注いているグラスに視線を向けている真斗さんは目を伏せ、眼鏡の奥で長めの睫毛が僅かに揺れていた。私の質問が聞こえているのかいないのか、返事をすることなくお茶の入ったグラスを差し出す。
その沈黙が、答えを言っているような気がした。
「大切なものなら、もう、手放すなよ。一度手放したら、次はない」
「……はい」
受け取った麦茶を一口飲む。
冷たい液体が体内を通り抜ける感覚がして、五臓六腑に染みわたった。
真斗さんは頭を指で掻くと、こちらを見る。
「あと、一番大事な仕事をひとつ。時々こいつの話し相手、しといてくれる?」
「こいつ?」
「うん」
真斗さんは肩に乗ったインコを指さす。
「……は?」
「イチバンダイジナシゴトダヨ。リカ、ヨロシクナ」
首を傾げたインコがこちらを見る。
「え? え? ええー!!」
静かな店内に、私の絶叫が響き渡った。
喋った。喋ったよ。インコが喋った!
いや、インコは喋る鳥だって私も知っているんだけどね。でも、知っている言葉を繰り返すだけじゃないの!?
唖然とする私をよそに、真斗さんは落ち着いた様子でインコの背を指先で撫でる。
「こいつ、付喪神だよ。遠野さんのその白い猫と一緒」
「つくもがみ? 前もそんなこと言っていましたけど、それってなんですか?」
「あんた、その子が見えているのにそんなのも知らないっておかしくない?」
真斗さんは私の足下にいたシロを顎でさす。呆れたような口調にぐっと言葉が詰まるけれど、『つくもがみ』なんて知らないものは知らない。
「前にも少し話したけれど、付喪神は物に宿った神様だよ。長い期間、人が情を込めて大切にした物には、魂が宿る。それが付喪神ね」
「物に魂が? 長い期間……」
「そう。ついでに言うと、普通の人には見えない。見える人はそっち系の力が強い人だね」
「…………」
ちょっと色々と想像の斜め上を行き過ぎている。
けれど、今、現に目の前にいるインコはオウム返しじゃなく言葉を発することができるのは確かだ。
それに、シロはいつも私の周りにいたけれど、誰もその存在に気が付く人はいなかったことはこの数年間で知っている。だからこそ、前回ここに来た際に店長がシロを抱き上げたことに心底驚いたのだ。でも──。
「この子、万年筆を貰ったときにはいなかったんです。でも、途中からふらりと現れて。私、そんなに長い期間使っていないですけど……」
私はシロを抱き上げて、真斗さんを見上げる。
「あんたはそれだけその万年筆に思い入れがあって大事にしていたんだろ? 立派な付喪神が宿るっていうのは、それだけ大事にしてきて思い入れがあるってこと。うちは不用品は買い取るけど、その人にとって必要なものは買い取らない」
真斗さんは座卓の上のお盆に伏せて置いてあったグラスを一つ取ると、それに麦茶を注ぐ。琥珀色の液体が透明のグラスの中に満たされてゆく。
なんだ。やっぱりこの人、何もかもお見通しだったんだ。
段々と嵩を増す麦茶を眺めながら、ふとした疑問が湧いた。
「……もしかして、あの万年筆は五万円も価値がなかったんですか?」
注いているグラスに視線を向けている真斗さんは目を伏せ、眼鏡の奥で長めの睫毛が僅かに揺れていた。私の質問が聞こえているのかいないのか、返事をすることなくお茶の入ったグラスを差し出す。
その沈黙が、答えを言っているような気がした。
「大切なものなら、もう、手放すなよ。一度手放したら、次はない」
「……はい」
受け取った麦茶を一口飲む。
冷たい液体が体内を通り抜ける感覚がして、五臓六腑に染みわたった。